第五章 栄陽にて

「よっ、と……。じゃ、雪ちゃん。この屏風をよーく見てるのだ。少しの間だから、術中オイラの代わりにしっかり打ち合わせをしてほしい」

「うん!お願い」

その辺から借りてきた屏風の前にきっちり正座した雪にそう言って、井宿は意識を集中させる。

しばらくしてそこへ浮かんだ鬼宿の変わらない姿に、彼女は安堵のため息を洩らしていた。

「鬼宿……! 無事で良かった!」

「ああ、意外と丁重にもてなされて逆に怖いくらいでな。あいつら太らせて食う気じゃねえだろうなって……いや、俺の事はいいんだ。そっちはどうなんだ?お前も……みんなも、元気か?」

「うん、本当に倶東国の攻撃もなかったって。それから、やっと七星士がみんな揃ったんだ!だから明日の夜、そっちに迎えに行くね!」

「え、迎えにって……まさかお前も?」

「勿論!あ、大丈夫だって!井宿も一緒だし!あと、翼宿って新しい仲間も」

雪が三本指を立てて、鼻息荒く宣言する。

ちらりと視線を向けてきた鬼宿に、井宿は軽く頷いて見せた。

「そっか……くれぐれも気をつけてくれよ?」

「……雪ちゃん、鬼宿君、そろそろ呪文がもたないかも……なのだ」

「あ……。そうだった!鬼宿、場所を決めて。私達がそこまで行くから!」

「そうだな……。あ、庭園にすっげぇ目立つ巨木があるんだ!そこなら宮殿からは少し離れてるし、遠目にもすぐ見つけられると思う。さすがに敷地からは出られねえんだ」

彼がどのくらい監視されているのかは分からないが、おとなしく過ごしていたなら多少の自由はあるはず。警備が手薄になる深夜を狙って行こうと前もって話していたので、雪もすぐに返答した。

「分かった!じゃあ明日、零時にそこで待ち合わせしよう!」

「ああ、約束だ」

――よし、もうこれでいいだろう。というか……持たない。

井宿は組んだ手を、一気にほどいた。

「っ……だあぁっ、限界なのだ……!!」

ばたりと体を倒すと、屏風にかじりつくように話をしていた雪がそれに気付いて、慌てて駆け寄ってくる。術も解けて、鬼宿の姿は綺麗さっぱり消え失せた。

「だ……大丈夫?」

「はぁぁ……。何とか話せたのだ。でも、どうやらあちこちに結界があるみたいで、結構厄介なのだ……しっかり対策を練らなくては」

本人にも、部屋にも、むしろ倶東の宮殿全体にもだろうか、幾重にも結界が張られているのは間違いない。

余所者一切を弾き飛ばすような力のそれは、自分の使うものとは少し違う。倶東には、どんな術者がいるのか。

「井宿?」

どうやら考え込みすぎたらしく、慌てて顔を上げた。不安げな雪に「何でもないのだ」なんて言ってみせて、そっと立ち上がった。

いたずらに心配の種を増やすこともないだろう。これは、自分達七星士の役目なのだから。







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