第九章 青龍の巫女

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「……何?」

星宿は筆を動かす手を止め、ひどく険しい表情で雪を見つめていた。

「今、何と申した?」

「……私、やっぱり倶東に行こうと思う」

さっき翼宿と二人で話し合って決めたばかりのことだ。さすがに雪を連れて勝手に動くのはまずいし無理だと諭されたので、こうして許しを請いに来ている。

「ならぬ、そんな事をしては危険すぎる!」

星宿は雪に駆け寄り、肩を掴む。口調も行動も彼らしくなく、随分と焦っているようだ。もし仮に立場が逆だったとしたら、雪も同じことを言ったかもしれない。

――しかしそれでも雪は視線をそらさずに、ゆっくり首を横に振った。

「でも行かなきゃ気が済まない。星宿だって、他の皆だって、本当はそうでしょ?」

「それは勿論そうだ。しかし……!」

「星宿様、俺が一緒に行きます」

今までずっと背後で黙っていた翼宿が、ここで口を挟んだ。

「たった二人だけで、倶東へ行くと申すのか?」

「ほんまは柳宿を呼ぶか考えたんでっけど……よう考えたら、人数は絞らないとあかんて井宿が言うてましたから」

人数は出来るだけ少ない方がいいのだ……そう言った彼の姿を、雪はぼんやり思い出していた。

「必ず、二人を連れて帰るから。だからお願い。星宿、行かせて!」

ぐっと歯を食い縛るような表情の後、星宿は目を伏せて雪から手を離した。苦渋の決断だったと思う。彼もまた、朱雀七星士の一人なのだから。

「翼宿……、分かっているな?」

軽々しく行ってこいとも言えないのか、含みを持たせた言葉が飛んだ。

「……勿論」

深いため息の後で星宿が項垂れ、皺の寄った眉間に指を当てた。一方の雪は第一関門は突破出来たと、人知れず肩の力を抜いていたが。

倶東に乗り込んで行くことよりも、仲間を説得する方がずっと難しい。

「くれぐれも油断するな。敵は……青龍七星の力は、平和な世に生まれた我々とは比べ物にならない」

独り言のようにそう呟いて、星宿は椅子に座り直す。しかし再び筆をとる気にはなれないようだった。






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