Happy Birthday!

時刻は夕方。

いつもより少しだけ着飾った雪は、息を弾ませてとあるバーの扉を開いた。

「あっ、やっと来たわね」

「危うく遅れるとこだったぁ。あ、これ冷蔵庫によろしく!」

カウンターの向こうから手を伸ばした柳宿に箱を渡し、手近な椅子に座る。

今日は井宿の誕生日。柳宿が働くバーがたまたま定休日であり、オーナーの厚意で貸してもらえる事になったのだ。井宿はいつぞやの手伝いの件もあるし、普段から顔を売っておいた甲斐があった。

ここなら、酒やつまみの調達には困らない。何より自宅で集まるより広いので有り難い事である。

「翼宿は?まだ?」

「本日の主役を迎えに行ったわよ。メッセージ送っても無視されるかもしれないからって」

「私がしとけばよかったかな、準備でバタバタしたから……」

「好きでやってんだから放っておいていいのよ。しかしせっかく店をまるごとおさえられたんだから、皆来れれば良かったんだけどねぇ」

ここでいう皆、というのは柳宿や翼宿を除いた他の四人の事である。

「あー、私もしばらく会ってないや……。忙しいんでしょ?」

「星宿様と鬼宿は言わずもがなね。軫宿も今夜は仕事抜けらんないっぽいし、張宿は留学中だし……あ、でもちゃんと全員示し合わせたみたいにカード寄越してきたわよ。律儀よね」

ひとまとめにしたらしい封筒をかざして、柳宿が笑う。星宿と鬼宿は最近モデル業もやっているとかで、雑誌などで頻繁に見かけるようになった。まあ実を言うと鬼宿は比較的近所に住んでいるのだけれど、バイト漬けで顔を合わせる機会はほとんどない。

全員集まったのはいつが最後だったか、とぼんやり考えたのだが、長く会っていなくても寂しいとか、関係が途切れてしまうようには思わない。なかなか不思議なものである。

「あっ、そうだ雪。プレゼントは用意したの?」

「それがさぁ、あの無欲さには困ったもので……まだなんだ」

「ああ、気持ち分かるわ」

柳宿はカウンターに頬杖をついて、何やら酒を呷った。

ずっと考えていたのに、未だに考え付かないから困ったものだ。特にこれといった趣味もなく、必要最低限の物だけで生活している彼に、一体何をあげればいいのか。

翼宿や柳宿ならまだ思い浮かぶ。軫宿は……軫宿も井宿と似た風なので、分からない。

そんな事を考えていると、顔をじっと眺めている柳宿に気付いた。遠くに投げていた焦点を、そこで彼に合わせる。

「あ……考え事してた」

「みたいね。まぁ、いいんじゃないの?あたしらだって、金出しあって飲み食いさせるくらいしか思い付かなかったんだから」

そう言われ、「うん」と頷いた雪も、手元の烏龍茶を流し込んだ。






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