Happy Birthday!

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――会社を出るなり、オフィス街にはおおよそ似つかわしくないオレンジ頭が佇んでいたから、思わず無視してしまいそうになった。というか、した。

「やい、シカトするんやない」

「あまり怖い顔をしてると通報されるのだ」

「されるかい。阿呆」

行き交う人の波に乗りながら、ずかずかと並んだ翼宿に尋ねる。

「で?何の用なのだ?」

「迎えに来たったんや。お前がお得意の深読みで、俺らの呼び出しをすっぽかさんように」

「悪いが、そこまで失礼な奴じゃないのだ」

肩を竦め、井宿はため息をつく。せっかく仲間達が自分の誕生日を祝ってくれるというのに、すっぽかしてどうする。

当日昼になって柳宿から知らされた事であるが、そこに雪が居るのだって分かりきっているのだ。

「天気悪なくて良かったな。最近雨続きやったんに」

「日頃の行いが良いからなのだ」

そんな他愛もない言葉をちらほらと交わしながら、バーへと足を向かわせていく。

真面目そうなスーツの男に、派手な出で立ちの若者。何とも妙な組み合わせである。はたから見たらカツアゲか拉致か……そんな事を考えて、井宿は思わず小さく吹き出してしまった。

「何が可笑しいねん」

「いや、オイラ親父狩りにあってる気分なのだ」

「お前、いくつやねん……」

「突っ込むべきはそこじゃないと思うのだが」

遠回しに見た目が怖いと言われている自覚がないのか、もはや慣れからくる麻痺なのか。

「ああ、せや。井宿、ちと手ぇ出せ」

バーの入り口前までやって来た頃、翼宿が不意に呼び止める。何やら落ち着かぬ様子だ。

「何なのだ?」

「これ、お前にやるわ。ラッピングとかしてへんけど……皆の前では……なんや恥ずかしいさかい」

「へえー?君にしては気が利くのだ」

やけに膨らんだポケットから取り出された箱を受け取り、ありがとう、と素直に言おうとした井宿の顔が一瞬にして強張った。

「……おい、翼宿!」

「せやから言うたやろ!恥ずかしいて……!オンナもおらんのに買うのさえ恥ずかしかったんやで!?お得用三箱パック!」

そういう意味の"恥ずかしい"だったとは、聞いて呆れる。そもそも、こんなに嵩張るのにどうやってポケットに入れていたのだろう?

「こんなものは不要なのだ!」

「えっ、井宿はん……もしかして使いませんのん?コンド」

「……あんた達、来たなら入んなさいよ。主役がそんなところで、野郎と何やってんの」

振り返ると、ドアから柳宿の蔑むような目が覗いている。恐らくあの目つきだと全部聞かれていたのだろうが、返すつもりだったその箱を咄嗟に後ろへと隠した。

そんな井宿を尻目に、翼宿はご機嫌で脇をすり抜けていった。






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