奇妙な一日

「雪ー?」

「あっ、わっ、何!?」

翼宿と二人でいる所に声をかけられてこうも慌てれば、井宿が訝しげに眉を寄せるのも無理はない。雪はそう思った。

少しそうした後で、つかつかと歩み寄ってきた彼は二人を見比べて解せない表情を浮かべるのだ。

「……何か君たち、おかしくないのだ?」

「な、何が……やねん」

脂汗をかいた翼宿をじっとり見た後で、井宿は「まぁいいのだ」と小さく呟いて雪の手を取った。こんな時の彼が内心で何を思っているかは非常に分かりにくい。

「雪、馬鹿がうつるから一緒に散歩でもするのだ」

「うっ、うん……!」

文句ひとつ言わぬまま取り残された翼宿は、一人その場に座り込んで頭を抱えた。

「ど、どうしよう……!」

何を隠そう、本物の雪は"こっち"なのだ。

つまり今連れていかれた雪は翼宿である。鋭い井宿の事だ、ばれていなかったとしても――まあ時間の問題だろう。

どうしてこうなったか、それはほんの数分前に遡る。ひょんな事からお互いの額をがっつりとぶつけてしまうという災難があったのだ。

あまりの痛みに目を閉じて、謝罪となにか文句のひとつでも言おうと顔を上げたら、自分を見下ろしていたのだからどうしようもない。

井宿に知れたらどうなるだろう、二人は一番に同じ予想で瞬時に青ざめ、冒頭の会話に至るのである。

「翼宿、うまくやってくれるかなぁ……でも、このままじゃ」

雪の心配はどんどん募り、今にも胃が悲鳴をあげそうになっている。井宿には話しづらく、かと言って一人で片付けられる問題でもないのなら、どうするのが正解なのか。

「そうだ、軫宿!」

ただ一人頼れそうな男の名前を呟いて、雪は急いで軫宿の部屋へと向かっていった。






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