言葉と行動その結果

好きだって言えば伝わると思ってた。
だって言葉に出して伝えなくちゃ絶対に想いは伝わらない。

おれは思ったことはすぐに言っちまうし、むしろちょっと黙れとか言われることが多いくらいだ。
なのにさ。言葉に出しても全く伝わらないことってあるんだな。


「サンジ、おれサンジが好きだ」

「はいはい。ありがとよ」

ほら、邪魔だ。飯出来るのが遅くなっちまうぞ?
サンジはそう言っておれの方を向きもしないでひらひらと手であっち行ってろ、の仕草だけであしらう。むむ。顔ぐらい向けたらどうだ。お前教わらなかったのか?人と話をするときは相手の目を見て話しなさいっての。人一倍マナーにうるさいくせに。
でも飯の時間が遅れるのも嫌だから、おれは仕方なくそれに従う。


「サンジなんてナントカキックコースだ」

甲板で寝そべってそう呟いてたら、ナミが「何言ってんのアンタ」っておれの頭の方に立って話しかけてきた。

「ナミ。パンツ見えそうだぞ」

言った瞬間に目の前に星が散る。ちかちかする目を何度かまばたきさせていると、あんたにはデリカシーってもんがないのかと言われて終いには麦わら帽子ごとスパンと頭を叩かれた。

「何でもかんでも口に出して言うもんじゃないわよ。まったく」

「だって言っちまうんだもん。それに言いたいことは言わなくちゃだぞ」

「言えばいいってもんじゃないわよ。言わなくてもいいこともあるの」

ナミのその言葉に、ぐっと息が詰まった。

「言われたら嫌だってこともあるのか?」

「そうね。言われて気分の良くないこともあるでしょ?」

「…そうか。そうだよな」

自分だって言われたら嫌なことは確かにある。夢を、仲間を、馬鹿にする様なことを言う奴は許さねぇ。ムカムカしてぶん殴ってやりたいくらいだ。

じゃあ、サンジは?
言われて嫌なのかもしれない。おれに好きだって言われること、嫌だから聞いてくれないのかもしれない。でも、嫌なら嫌だって言えばいいのに。分からねぇよ言ってくれないと。

「サンジ君とかはさ」

ナミの口からサンジの名前が出て驚いた。いつもみたく、つい口に出して考えてたのかと思ったけどそうではないらしく。

「私やロビンに好きだとか言ってくれるでしょ?あれ、本当は嬉しいわよ。いつも適当にあしらっちゃうけど」

「え?そうなのか?」

「でも、あれだけ毎回だと美辞麗句にしか聞こえないかもね。人によっては」

「何だそれ」

「上辺だけの飾った言葉ってこと」

「サンジは本当にそう思ってるぞ?」

だってあいつ、女が好きだしナミやロビンは特別にそうだ。

「そうでしょうね。でも聞く人や捉え方の違いによっては、そう思われることもあるってことよ」

「ふぅん…」

「あんたの場合はそんな風に思われることないだろうけど。いつでも本心だものね」

それは違うかもしれないぞ、ナミ。だっておれの言葉はサンジに伝わってない。
そういやおれも、サンジみたく(女にじゃねぇけど)皆に好きだ好きだすぐ言ってる気がする。
でも、サンジに言う「好き」は、皆とは違う「好き」だ。
…サンジ、そこを分かってないのかも。

ちゃんと分かって欲しいから、それは違うぞと言いに行こうと勢いよく立ち上がった。
でも。
いや?やっぱり好きだとか言われんのが嫌なのか?あれ?どっちなんだ?それとも別な理由でちゃんと聞いてくんないのかもしれない。もう訳が分からなくなってきた。

「何ひとり百面相してんのよ」

「ナミ、おれどうしたらいいんだろう」

「はい?」

「言ってることがちゃんと伝わらないんだ。困る」

それに、つらい。胸の奥がぎゅとして苦しい。こんな思いも初めてだから嫌だ。どうしたらいいのかさっぱりわからない。

ナミはおれをしばらくじっと見ていたけど、はぁと大きな溜息をついて言った。

「じゃあ、態度でしっかりと表現したら?実力行使。問答無用な強引さはあんたの十八番でしょ」

「…態度。どうゆう風に」

「何悩んでるのか知らないけど、そんなの全然あんたらしくないわよ。いつもの通り、やりたいことやってみなさい。言葉で細かく自分の気持ちを伝えるのは逆に苦手でしょ。ストレートなことしか言えないんだから」

そうか。それならできる。やりたいこと、あるぞ。

「分かった!サンキュな!ナミ!」

ナミに礼を言って今度こそおれはキッチンに向かって走った。
サンジがおれに好きだって言われんのが嫌なのかもとか、ちゃんと想いが伝わってないとか、もうそんなこと考えていなかった。ただただ、おれはおれのやりたいことをやる!

「サンジ!」

勢いよくドアを開けて、振り向いたサンジの肩にゴムゴムの力を使って捕まると、腕がおれの体を引き寄せてバチンと音を立てて戻る。
それからそのまま、ぎゅっと抱きついた。

「ルフィ?」

サンジが驚いたような声で体を固まらせてるのが分かった。だから、離れない様にもっと力を込めて抱きつく。

「おい、ルフィ?何…」

サンジがその先の言葉を言う前に、おれはその唇を自分の唇で塞いだ。勢いよくがぶりと食べる様にしたせいで歯が当たり、口の中に籠った音が頭まで響いた。
息の仕方が分からない。でも離れたくなくてそのままもっと吸い付いたら、今まで動かないでいたサンジの両手が急な動きでおれの顔を挟むようにして掴み、くっついていた唇が離された。
あ、と思ったときには唇に感じていた温かさは失われて逆に冷たさを感じていて。
何するんだとサンジを見たら、サンジが逆に何するんだという目でおれを見ていた。

「サン…」

「何してやがるクソゴム」

呼ぼうとした名前は遮られた。
目の奥に戸惑いと拒否があり、発せられた声からもそれが分かる。
言葉に出さなくてもそれが分かって、なんだちゃんと言葉にしなくても分かるんだ、すげぇななんて思った。

「てめぇ何のつもりでこんなことしやがった」

サンジが顔を反らしながら、忌々しそうに言う。表情は髪に隠れて見えない。

「好きだから」

それでも、はっきりと言う。

「サンジの事が好きだから。サンジが好きだって思ったらキスしたくなって、だからそうした」

静まり返ったキッチン。
船には船員達がいるはずなのに、この空間だけが別にある様な錯覚。波の音だけが聞こえている。

カチリ。シュボ。

ふー、とサンジが煙草に火をつけて深く吸い込んだ煙を吐き出した。
広がったそれを何となく目で追ったけど、直ぐに消えてしまい、また目線をサンジに戻したときには、目がこちらを見ていた。
あの戸惑いと拒否が含まれていた目が。じっとおれを。

けれど今、その目の奥に見えるものは戸惑いが少しと、優しさ。

「おいクソゴム」

「なんだ」

「お前おれが好きなの」

「ずっとそう言ってるじゃんか」

そうか、そうだったよな。なんて小さく呟くようにして目を閉じるとまた深く吸い込んだ煙を吐き出す。今度はそれを目で追わずに、サンジのことを見続けた。
煙草が短くなり、灰皿にそれを押し付けると、その手がおれを引き寄せ、勢いでサンジの胸の中に飛び込んだ体がしっかりと両腕で固められた。
あれ。抱き締められてる?

「…ルフィ」

「おう」

「悪かったな、そこまでさせて」

「え?」

「好きだって、ずっと言ってくれてたのにあしらってばかりで。ビビってたんだよ」

「はぁ?何にだよ」

思わず眉間にシワを寄せた。

「期待して、そうじゃなかったらおれはきっと駄目になる。正面から向き合えなかった。小心者なんだよ」

「おれを信じてなかったのか?」

「いや、信じてるからこそだ」

はぁ?じゃあ素直にそうか、って受け入れればよかったじゃんか。珍しく考えまくっちまったぞ。
あ、そうだ。

「なぁサンジ、ちゃんと聞かせてくれ」

「…何をだよ」

「サンジの気持ち」

おれを好き?ちゃんと他の「好き」とは違う「好き」?それとも。

収まった腕の中からサンジを見上げる。
ちゃんと言葉で聞きたい。言葉にしなくても分かったけど、やっぱりちゃんと聞きたいから。なぁサンジ。どうなんだ?

「好きだ、ルフィ」

その言葉が聞こえた途端に塞がれた唇。歯なんて当たらない。でも食べる様に、深く深く。

言葉にしなくちゃ伝わらない。
でも言葉にしても伝わらないこともあるって知った。それならば行動をするしかない。
しかもやっぱりおれには問答無用な実力行使が向いている。

皆も意外にそうなんじゃねぇ?

好きだ。好きだ。大好きだ。
他の奴とは違う特別な好きだ。なぁサンジ、おれの気持ち伝わった?

長いキスの後に立てなくなったおれは、サンジにもたれ掛かるようにしてそう聞いた。

「充分伝わりましたよ船長さん。じゃあおれの気持ちは伝わりましたかね?」

目を細めて口許には笑み。ぐる眉は下がっている。

おぉ。伝わったぞ。
うちの船の料理人で大切な仲間。
おれの大好きなサンジ。

おれ言ってくれなきゃ分かんねぇだろうから、これからもちゃんと言ってくれよ?
あと、行動な。

よろしく、サンジ。
大好きだかんな。




END


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