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お礼文は1種のみです。

 ◇

 直前の記憶はなく、気が付いたときには生駒さんと二人きりで閉じ込められていた謎の白い部屋。
 ご丁寧に部屋の脱出方法を記載した、扉の上の掲示。目を疑いたくなるような、ふざけた掲示の内容。


◇脱出条件◇
【彼氏に対して性的に興奮するところを七つ挙げる】もしくは【彼氏が自分のここが好きだと思うところを五つ挙げる】


「どちらも言いたくありません」
「そんな死にそうな顔する?」

 恋人やんな俺たち、と生駒さんは愕然とした様子で私を見る。
 恋人になれたからと言ってそんな恥ずかしいことをあっさり言えるようになっていたら、これまで苦労していないんですよ。いくら生駒さんが私のことを好きだと言ってくれているといえど、その好意に甘えきってみっともない恥ずかしい姿を見せた結果幻滅されないなんて保証はない。というか普通に恥ずかしい。いやだ、なんとしても避けたい。

「生駒さんのことは、……好き、ですけど……。けど嫌です、嫌、絶対無理……」
「あかん、めずらしく語彙力なくなっとる」
「むり……」
「まあどっちかでええんやし、ここ好かれとるやろなーと思うとこ挙げる方が楽やろ。好きなとこたくさんあんで」
「生駒さんは私に自意識過剰なさもしい女になれと言うんですか」
「ならんて」



 そしてそのまま、私が回答を拒絶してから体感で三時間が経過した。
 無理とは薄々察しつつトリガーでどうにか部屋の破壊を試みたりしたものの、部屋にも扉にも傷一つ付いていない。もはや目が覚めたらこんな状況になった原因や犯人よりも、私たち二人を拉致軟禁している手腕やテクノロジーの方が気になってきた。
 このままでは何も改善されないのは理解している。これが近界からの敵対的接触でない可能性は否定できず、ボーダーがこの状況を認識しているかどうかも分からない。ならば、分かりやすく提示された脱出条件を満たしてから次の手を考えるべきだ。仮に罠だとしても、それ以外に手がかりはないのだから致し方ない。分かっている、分かっているけれども。でも、だって、恥ずかしい。

「ごめんなあ、俺が答える方やったら良かったんやけど」
「……どうして生駒さんが謝るんです」

 生駒さんが眉尻を下げて謝る意味が分からない。彼にはこの場を打破する手段も権利も与えられていないのに。
 謝罪をするべきは、この部屋に私たちを閉じ込めている犯人と、生駒さんを正体の知れない部屋に拘束し続けている私自身だ。
 それなのに、彼が申し訳なさそうにこちらを気遣うものだから、彼にそんな顔をさせている自分のつまらないプライドに嫌気がさす。
 すう、はあ、と息を吸って吐いた。脱出条件の文字を見上げ睨む。ちゃんと、腹をくくらなくては。

「…………戦闘態勢に入ったときの、真剣な眼差し」

 ぽーん、と気の抜ける軽快な電子音が部屋に響く。
 扉の上の掲示に、「1」とアラビア数字が浮かび上がった。

「あと……、身体に触れるときの、手のひらの優しい感触」

 ぽーん。数字がひとつ増える。カウントまでしてくれるご丁寧な仕様でありがたいことだ。恥ずかしくてたまらなくって、身体が熱を帯びてくる。

「名前を呼ぶときの声色」

 ぽーん。生駒さんは、ええ調子やとこちらを見て無邪気に応援している。回答している間は彼を見なければよかったと悔やみながら、視線を逸らした。

「隊の仲間と話してるときのリラックスした表情と、二人でいるときの表情の違い、とか……」

 ぽーん。穴が入ったら入りたい。こんなことなら最初に耳をふさいでいてもらえば良かった、とふと気が付く。きっと優しい彼のことだから、私が頼めば素直に手で耳をふさぎ回答を聞かないようしてくれただろう。おまけに意味なくみずから目まで閉じてくれそうだ。そんなことをようやく思いついところで、カウントが半分を超えている今となっては、もう遅いけれど。

「普段背筋をぴんと伸ばして凛としているのに、家で二人きりだと少しだらけて甘えてくるところ」

 ぽーん。掲示は「5」の数字が表示される。

「それから――、」
「あれ、五つでええんちゃうの」

 生駒さんが、不思議そうに首をかしげて扉を見る。ドアノブのない扉には、なんの変化もない。当然だ。

「……七つですよ、書いてあるでしょう」
「え、……そっち?」

 生駒さんは扉の上の掲示を見て、もう一度私の顔を見る。穴が開きそうなほど見つめてくる。
 ……ああもう、だからいやだったのに!!




お題ガチャの【生駒と夢主は「相手に対して性的に興奮する所を7個言う」か「相手が自分のここが好きだと思う所を5個言わないと」出られない部屋に閉じ込められました。選ぶ権利は「夢主」にあります。 ※尚、「〇〇を言う」は嘘をつけないものとする。】でした。
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