ミルキーウェイは夏の風物詩だけれど、実は冬にも見えると教えてくれたのは貴方。
あの時見上げた夜空には満天の星が輝いていた。

――そして、今日も。

「ジョシュア様!星ですよ!星!」
「夜だからな。星が見えてもおかしくない」
「もう!そういう問題じゃないんです!」






星が溢れる川







閑静な山の中にある、王家所有の別荘。私とジョシュア様は、今年の夏もこの地を訪れた。
バルコニーの手摺りから身を乗り出して空を見上げれば、そこには星が輝いている。

「あ!あれって天の川ですよね!」
「…楽しそうだな」

余程私がはしゃいでいるように見えたのだろう。私を見てジョシュア様がふっと口元を緩ませた。

「あの星がベガだ」

バルコニーの手摺りに寄り掛かり、星空を指差すジョシュア様。その指の先には、ひときわ明るく輝く星があった。

「そこからデネブ、アルタイル。…もう分かっただろう?」
「夏の大三角形!」
「正解だ」

私の解答にジョシュア様は目を細めてそう言った。

「本当にお前は楽しそうだな」
「…すみません。私ばかりはしゃいでしまって…」
「何故謝る?…×××が楽しければそれでいい」


近くに見える二つの星も、実際は光の速さで何百年もかかる距離にある。それはそれは、気の遠くなるような距離で。
手を伸ばせば好きな人がすぐそこにいるというのは、とてもありがたい事なのかもしれない。
光の速さで会いに行っても何百年かかるだなんて、私には耐えられない。

「…×××?」
「………」
「黙っていては分からないぞ」

口ではそう言いつつも、ジョシュア様が私の手を優しく包み込む。少しかさついていて骨張っている、ジョシュア様の手。
そのまま何も言わず二人で星空を見上げていると、向こうの方で流れ星が流れたような気がした。


「…風が出てきたな」

繋がれていた手が静かに離れていく。

「いくら夏とはいえ、山の中だ。体を冷やす前に戻るぞ」

ジョシュア様は私の肩から落ちかけていたショールを掛け直すと、バルコニーのガラス戸を開けた。
もう少し星空を見ていたい気もするけれど、冷えてきたのは事実だ。
部屋の中に入ると、後ろでカシャンとガラス戸が閉まり、薄いレースのカーテンが引かれた。


「…それにしても、よくお休みが取れましたね」
「仕事がまとめて片付いたからな。今頃ジャンも羽を伸ばしているだろう」

今回の短いバカンス、ジャンさんはお城でお留守番。代わりに違う執事さんが付いてくれている。
何かあったらジャンさんに連絡を入れることになっているが、幸いにも今のところジャンさんの出番は無い。

「まぁ、明日の夕方には城に戻らないといけないが」
「あっという間だから、ちょっと物足りないですね」
「…物足りないのはアイツの方だろ」
「アイツって、ジャンさんですか?」
「休みが欲しいと他のメイドや執事に零していたらしいからな」

忙しいとか休みが欲しいとか言いつつも、ジョシュア様の為に働くジャンさんは楽しそうだ。
…でも、これは内緒にしておこう。


「ジョシュア様。明日は早起きして、朝日も見ませんか?」
「俺は別に構わないが、お前は起きられるのか?」
「が、頑張ります…」
「起こしてやる」

夏の夜明けは早い。携帯電話のアラームをセットして枕元に置いた。おそらく、アラームが鳴る前に起こされるんだろうけど。

「おやすみ、×××」
「おやすみなさい…」

同じベッドに寄り添って目を閉じる。


――彼と二人、星空を旅する夢を見た。


End.

−−−−−−−−−−
これと関係があるような話。何でもないワンシーンが一番好きです。
ヒロインが大人っぽくなりすぎてしまう事と、ジョシュ様の堅さ加減に悩む...
堅くなり過ぎると甘くないし、軽過ぎると別人だし。…うーん、難しい。



title by:月と戯れる猫


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