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授業中にも関わらずダームストラングの校長であるカルカロフが、切羽詰まった様子でスネイプが教鞭をとる中押し掛けてきた。そしてなんと 授業が終わるまでそわそわと待っていたのである。ハリーは機転を利かせてアルマジロの胆汁を溢し、机の下に身を隠して拭き取るふりをして聞き耳を立てていた。
生徒の姿がみえなくなったのを確認して、スネイプは呆れたようにカルカロフに話しかける。

「何がそんなに緊急なんだ」
「これだーーこんなにはっきりしたのはあれ以来初めてだ」

ハリーが大鍋の端から覗き見ると、カルカロフはローブの左袖を捲り上げてスネイプに見せている。何を見せているのかまではハリーの位置から見えそうもない。しまえ、とスネイプが苦々しく唸った。

「君も気付いているはずだ。マルフォイの娘はどうなんだ? あの娘もまさかコレをーー」

興奮したようにぶつぶつと話しているカルカロフ。マルフォイの娘とはディアナ・マルフォイのことだ。ハリーはクリスマスの夜にも彼女が この2人と話しているのを聞いていた。去年ハリーたちを助けてくれたり、シリウスのことを未だ黙っていてくれている彼女は味方なのか敵なのか…。ハリーには訳がわからなかった。そうこうしているうちにスネイプに見つかってしまったので、ハリーは慌てて教室を後にした。





「ということがあったんだ」

翌日の昼過ぎ、ハリーたち3人はホグズミードから少し離れたところにある岩場でシリウス・ブラックと密会していた。後見人の男は以前会った時よりも痩せて見えた。やはり逃亡生活というのはとても辛いものなのだろう。逃げ隠れしながらもハリーのことを心配してホグズミードに留まってくれているシリウスに、ハリーは恥ずかしさと嬉しさをじんわり感じていた。
シリウスはつるりと綺麗になったチキンの骨をしゃぶっていたのだが、口から離してすっかり当惑した表情だった。

「スネイプに自分の腕の何かを見せた?」

何かを考え込むように汚れた頭を掻き毟り、口を引き結ぶ。

「わたしにはそれが何のことやらさっぱりわからない…ディアナにも関係があるかもしれないのだね?」

シリウスはディアナ・マルフォイに助けてもらった借りがある。裏切ってしまった申し訳なさもあるのか 彼女のことには心を砕いているようだった。


「ダンブルドアがスネイプとディアナを信用していることは事実だ。スネイプがヴォルデモートのために働いたことがあるなら、ホグワーツで教鞭をとることをダンブルドアが許すことは考えられないし、ディアナについても『味方の組織に誘っている』と聞いている。
身辺調査はするだろうし、疑いのあるものを味方に引き込むはずがない」
「でもあいつの家は マルフォイ家だ」
「ハリー、女の子に あいつ はダメだ。確かに生家はマルフォイ家だが、わたしの従姉妹にも家風と合わなかったからブラック家を出た者もいる。かく言うわたしもそうだ」

ハリーは こんなにも疑わしいのに肩を持つシリウスを恨めしく思った。ロンも昔から彼女に憧れを抱いているし、ハーマイオニーも彼女に悪い印象は抱いていない。彼女を怪しんでいるのはハリー1人だった。


「でもそうだよな、ドラコ・マルフォイの姉さんじゃなきゃ 女王さまは完璧だ」
「去年 わたしは彼女といろいろな話をしたーーハリーの情報が欲しかったのでね、色々と聞いていたんだ。ディアナは弟を大層可愛がっているようだし、女の子が 未成年のうちに家に反発するのは難しいことだろう。あまり悪く思わないでやってくれ」

ハリーはむっすりとして口をすぼめた。


「でもあいつ…あー、彼女はスネイプとカルカロフの秘密を知ってる。それにダームストラングの生徒と仲がいいんだ」
「でも彼が…ビクトールが言ってたわ。『イノワンとディアナのことは親が推し進めているだけで本人たちにそこまで気はない。ポーズだけ』なのですって」
「えっじゃあ女王さまはやっぱりディゴリーと…?」

ロンが両手を頬に当ててショックを隠しきれないように呟いた。ハーマイオニーがそんなロンを睨め付けるが 本人はいたって気づかない。うーん…と考え込んでしまったハリーたち3人に、シリウスは苦笑した。


「思春期は色々と騒がしいな」








くしゅん、と小さく跳ねたディアナをセブルスが目の端に捉えた。

「風邪かね?」
「校長が第2の課題の後で呼び出すから…」
「…帰って休みたまえ」
「あら、わたしが帰ったら教授は食事を何回抜くことになりますの? わたしも校長から『ご飯を食べなさい』って注意を受けたところですのよ」


アフタヌーンティーセットのスコーンにクリームを乗せて、ディアナはセブルスに手渡す。1の段のサンドイッチはもうすでに食べ尽くしていた。

「休憩も必要ですわ、わたしも貴方も」

研究や 騎士団に誘われたことの手続きや、勉学、秘密裏に行なっているジュニアとの密会など ディアナは色々と手広に忙しくやっている。セブルスも授業や生徒たちの試験作成、スパイ活動や 対抗試合の諸々の仕事で食事を抜くことが多かった。そんな中で、ディアナはまたタイミングよく お茶に誘われ に来たのだ。


「予知夢をこんなところで使っていていいのか」
「見るもんは仕方ないですわよね。せいぜい 素敵なティータイムのために利用させてもらうわ」

ディアナは優雅にカップを傾ける。


「ねぇ、4メートルの毒ヘビからどれだけの毒を搾り取れるのかしら?」
「お前…何を考えている」
「ナギニって蛇がいたわよねぇ と思って。彼女は魔法薬の材料になり得ない?」
「そんなこと、畏れ多くて考えたこともないわ」


呆れたようにセブルスは言い捨てた。ディアナはそれをみて愛想よく微笑んでいる。付き合いの長いセブルスはその笑みが、企んでいる最中のルシウスの薄ら笑いと同類のものであると気づいた。


「解っているとは思うが…」
「手出し無用よね、分かっていますわ。でもセーフティネットくらいは欲しいじゃない」


どこまで足掻けるか分からないけれど、とこぼすディアナに セブルスは目を細めた。闇の家系に育ち、それでいてダンブルドアの側に付いて 雁字搦めに見える彼女は 尚も足掻こうというのか。あまつさえ 自分の進路と6年生の勉強で忙しい日々を送っているはずなのに、セブルスを気遣うようにお茶な誘う。


「…お前の気晴らしになるのなら、また茶に誘われないでもない」


セブルスの不器用な気遣いを汲んだのか、ディアナはにっこりと笑った。










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