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パシャん、と意識を覆っていた膜を突き破るような感覚があって、ディアナは覚醒した。よく晴れた空は青くて、目に眩しい。目の端にうつるスタンドでは生徒たちが大騒ぎで、手を叩いていたり、悔しがって飛び跳ねたりしている。一角ではホグワーツの教師陣が安堵の顔をしていた。その中に同じく安堵したようなセブルスと にやにやしているムーディの姿をみつけた。
強制的に意識を失っていたために体が怠くてたまらない。脱力して ぼぅっと水面に浮かんでいると、下から桟橋へと引き上げられて 体に一気にGがかかる。水に濡れて張り付いた重たいローブはディアナの体の自由を奪った。水から上がって急激に体温が奪われたこともあって 体がひどく重く感じた。


「生きてる…」

なんとか体を引き上げたセドリックが、ディアナの顔を伺って 安心したように隣に突っ伏した。

「…生きてますわよ。ホグワーツが生徒を殺すわけないじゃない」
「君は知らないから」


人質を取られ、セドリックが湖底で感じた恐怖は ディアナには計り知れない。ディアナは安心させるように、セドリックの震える手に自分の手のひらを重ねた。そこにマダム・ポンフリーが駆けてきて、2人を毛布で包むと沸き立つゴブレットを押し付けた。飲みなさい、と促され 2人で顔を見合わせて 恐る恐る口をつける。体の底から熱が生み出されるのが感じられて、体がぽっぽっと温まってきた。互いの耳から湯気が出ているのを見て合点する。この副作用からして ゴブレットの中身は元気爆発薬だ。
なんとか起き上がってマダムの案内に従う。他の代表選手が上がってくるまで、仮設の医務室で待機するらしい。

他の選手を待つ間、2人は椅子に腰掛けて毛布にくるまっていた。ディアナはマダムからタオルを一枚もらい、髪の毛を丁寧に拭いていく。セドリックはそれをぼんやり眺めていた。

「湖の底に沈んでる君をみて、思ったんだ」

ディアナが怪訝な顔を向けると、セドリックははっきりとした視線をぶつけてきた。


「君を失いたくないって。ダンスパーティの時、君はぼくのことを『気の合う弟』くらいにしか認識してないんだろうなって…それなら意識してもらえるくらいイイ男になってやろうって」
「……顔はハンサムよ?」
「君の判断基準は顔じゃないだろ?…ほら、スネイプ先生はハンサムなわけじゃない」
「…たしかに」


頭が働いてないからか 思わず口に出た本音に、2人は一瞬遅れて吹き出す。

「君が言ったんだよ?」
「あなたが言ったんでしょ?」


2人に遅れてゴールしたビクトールとハーマイオニーは、簡易医務室に入ってくるなり 声を殺して笑いあっている2人の姿に目を丸くした。






第2の課題はタイムオーバーしたが1番に帰ってきたセドリックを首位に、残った人質を助けようと奮闘したポッター、呪文は失敗したもののクリアしたビクトール、フラーの順で得点が入った。最終課題は6月に入ってから発表されることが公表された。

マダムの課題後の健康チェックと濡れた衣服の着替えを終えて校内の医務室から出ると、ダンブルドアが立っていて手招きされる。訝しみながら後をついていくと、校長室へと通された。無言のまま通され、ソファを勧められ、香り立つ紅茶のカップが目の前に置かれる。

「さて、ディアナ。なにかわしに隠していることはないかの」
「ちょっと、冷たい湖に浸かっていた生徒を休ませようという気は無いんですの」
「君は何も話してくれんからの。疲れてる今なら口を滑らせてくれるチャンスじゃろて」

本音なのか冗談なのかわからない調子で返される。ディアナは隠しもせずに舌打ちした。


「バーテミウス・クラウチ氏の自宅へ行ったのはなぜじゃ?」
「あぁ、ようやく調査がはいったんですのね。遅過ぎますわよ」
「彼はどこへ?」
「前にも言ったでしょう。ポッターが勝利する未来に『差し障りのないこと』しか話せないと」
「これは『差し障りがある』のかのぅ…」
「大いに」


ディアナは テーブルの端に置かれた角砂糖ポットやミルクを勝手につかって、ストレートの紅茶を甘いミルクティに仕立てていく。疲れているから甘いものを飲みたい気分だった。普段ならダンブルドアの淹れたものは飲まないのだが、体が求めているのだから仕方ない。


「これ、厨房からサンドイッチを運ばせるから待つんじゃ。エネルギーを手っ取り早く砂糖から摂ろうとするでない」


ダンブルドアが気付いてディアナがぽいぽいと角砂糖を放り込んでいく手を止める。5つ目の角砂糖が入ったところで、ミルクティーはゲル状になるのを免れた。ダンブルドアが両手を顔の横で2回叩くと、ローテーブルにミックスサンドが現れる。持ちやすく食べやすいように三角にカットされ断面の具材の層が美しい。


「進路研究も大事じゃが、食事を疎かにしてはならん」
「……帰してくれたら大広間で食べますわよ」
「逃げるからだめじゃ」

めっ、と諭されてしまったディアナは気が抜けたように項垂れる。闇の帝王と対をなす光の偉人がこんな調子でいいんだろうか。
第2の課題で呼び出される前の 空いた時間に 予知に関する過去の論文を漁り自分の能力の考察をしたためていたせいで 食事を取り損ねていたのだ。体が冷えたことで余計に空腹が加速したわけだ。ディアナは大人しく目の前のハムサンドに手をつける。


「タイムターナーの事故のこともありますから、予知夢は慎重に扱わなければいけないんですわ。色々な話を聞いてこの能力の取り扱い注意具合がよく分かってきたんですの」
「予知夢についての文献はあまり残っておらんからの…」
「安心してくださっていいですわよ、マイナスになるようなところまでは突っ込んでませんから」
「…わしはお主をどこまで信用していいのか決めかねておるよ」


ダンブルドア自慢の開心術も 固く閉ざされたディアナには通用しない。ダンブルドアは困ったように眉を下げた。


「わたしの優先順位は変わってませんよ」










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