12



DADAの教室から続いているムーディの自室に連れていかれた。ムーディは部屋に入って扉を閉めると掴んでいたディアナの腕をようやく放した。ディアナが痛みに袖をまくると、掴まれた指の形に痣になっていた。ムーディの後ろ姿を見つめて睨みつける。
見透す義眼で背後にいるはずのディアナの表情など丸見えらしい。くっくっ…と低い笑いが漏れた。


「さて、マルフォイーーお前の親父は関係ないな、お前はお前だ。1人で彼の方に会いに行ったことも、まぁ褒めてやろうーー我が同胞よ、彼の方からは話しは聞いておるだろうが。いや…もしかしたらその能力で初めから知っておったな?」
「あなたが スパイだということ?それとも別人だということ?」
「彼の方からは知らせが来た時は驚いた。相手はホグワーツの生徒だという…しかも魔女だ。預言者でもある…」

これ以上ない手駒を手に入れた、というような煌々とした様子でムーディ もとい扮したクラウチ・ジュニアが空に向かってぶつぶつと呟いている。

「予知夢は見ますけどまだ不鮮明ですわ、その件は彼の方にもお話ししました」
「だが、お前は彼の方を見つけ出した。精度は十分だろうが…え?」

確認というよりは そうだろう?と同意させるようにクラウチ・ジュニアが上からディアナの瞳を覗き込んだ。
傷だらけで年季の入った造形…化けているだけでこれはクラウチ・ジュニアの顔ではない。部屋の隅に薄汚れたトランクがあるのを見つけた。錠前がいくつもついているーーあそこに本物がいるのか。


「おうおう、隠し場所も知っているのかーーでは演じる必要はないな。しかし俺はまだお前を信用していないからな。親子は別の人格だと分かっちゃいるが、お前の父親は信用できん…それにお前は彼の方をお助けすると約束はしたようだが 条件を提示したそうだな」

口調が砕け、声色も少し若い男のそれに変わったーー猜疑心に塗れた義眼だけはどうにか見透かそうとディアナのことをずっと見つめている。もっとよく見ようと、無骨な手がディアナの顎を無遠慮に掴んで上を向かせた。


「当たり前ですわ、わたしはまだ成人前の未熟者。下手に手を出せば助力したつもりが大きな綻びになりかねない…。できる限りお助けする所存ですが、この予知能力が確立するまでは条件をつけさせていただきたいのです。それに、能力者は迫害の対象になりやすい…」


突出した異能は人から畏れられるものだ。帝王の庇護に入ることによりそれを避けたいと申し出たのだ。そのために未来を見る努力をする、と。ただ 正式な加入は卒業まで待ってもらいたいのだと。
義眼の明るい青色をまっすぐ見つめ返すと ある程度は納得できたのか、ふん と気に入らなさそうに鼻息をたてて ディアナから手を離した。

その時だった、部屋の暖炉がボウッと勢いよく焚かれ、中からセブルスの顔が現れた。クラウチ・ジュニアはムーディの顔で呆れたようにそれを見やった。火の中で照らされていてもセブルスは顔色が悪いのだな、とディアナはのんきに考える。


「生徒を返してもらおうか。今日は重要な魔法薬を調合する…叱責や罰則があるならば後日寮監のわたしを通してから行いたまえ」

「授業がはいっていたのか?
なに、前回の授業でセンスある攻撃魔法を操ったのでね、過去にそれを実践で使ったのではないかと詰問していただけだよ、スネイプ教授殿? こやつの生家はかの悪名高きマルフォイ家だからな」

ムーディは暖炉の顔に向かって煽るようににたりと笑って、後ろのディアナの姿を見せた。

「弟の件でダンブルドアとマクゴナガルにはたんまりと怒られたからな。ほら、体罰はしておらんぞ。聞くことは聞いたからこやつは返す」

ムーディは暖炉の上の壺に手をやって、掴んだ緑色の粉を炎の中のセブルスの顔に叩きつけた。にやにや笑っているからワザとらしい。炎の質が変わって、セブルスの顔は消え失せ 煙突飛行の炎に変わる。教師の部屋同士は煙突飛行ネットワークが組み込まれているようだった。

「詳しい話はまた後日だ。ーー魔法薬学準備室!」

ムーディは炎の前でそう叫ぶとディアナの腕をむんずと掴んで炎の中に投げ込んだ。





炎の中を通って空間移動をする感覚は、目隠しされた状態でジグザグに走る自動車の後部座席に乗せられるものと似ているとディアナは思っている。それでもポートキーよりはマシだ。
目の前がひらけて、セブルスが 飛び出してきたディアナの肩を支えてくれた。例の件からしばらく会っていなかったものだから、鼻腔に広がる薬草や薬品のほろ苦い香りが懐かしくて、肩の力がようやく抜けた。


「怪我は?」
「ありません」
「…ならいい」

セブルスも張り詰めていた表情を、鼻を鳴らして少し緩めるとディアナの腕を掴んで研究室へと引っ張って行った。薬草学の授業がはいっていたのは事実なのだ。

「話しは後で聞く」

クラウチ・ジュニアの腕の掴み方とセブルスのそれは少し違う。不器用に優しく導くようだと感じるのはディアナの色眼鏡だろうか。煙突飛行でバランスを崩したディアナを受け止めてくれたところが、また殊勝なことだと思う。心配して待っていてくれたのだと気付いて、ディアナはふふっと小さく笑った。









戻る
/

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -