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バスの最終に間に合う時間にお暇をし、無事シニストラが帰ってくる前にホテルのシャワーを浴び、ベッドに入ったディアナは 対面したヴォルデモートの姿を思い出していた。
赤子のような、でも赤子ではない。火事などで焼け落ちた家から発見されたソフトビニール製の人形のような、不恰好さと不気味さがある 不完全な姿だった。昔長寿を願って胎児を犠牲に生き返りを目論んだ という黒魔術の読み物を読んだが、あれが成功していたら あのような形で生きているだろうかと ディアナは薄ら寒さを感じて目を閉じた。口の中の張り付くような粘つきを必死にのみ下す。
日付が変わる手前、シニストラが上機嫌に帰ってきてお土産のチョコレートをくれた。知っている人が隣にいる、というのはとても心強いのだとディアナは知った。疲れ切っていたディアナは意識を溶かすように眠ってしまった。



学校へと帰ると、ホグワーツ中が浮かれた雰囲気だった。外へ出ていたディアナとシニストラだけが取り残されたようで 昼食の席に顔を出した2人は互いに顔を見合わせた。
ディアナがスリザリンのテーブルにつくと、メアリが寄ってきて昨日の試合の様子を事細かに教えてくれた。ポッターの快進撃だったようだ。ポッターとビストール・クラムが上位同点…原作通りだ。ディアナはほっと息をついた。メアリはそれを見て ビクトールのーー ダームストラングの心配をしたのだと思ったらしい。肩を叩いて、遅れて昼食の席にやってきたイノワンたちにディアナの横の席を譲った。

「ビクトール おめでとう。怪我はないの?」
「ありがとう、ヴぉくは大丈夫 だ」

拍手でスリザリンテーブルに迎えられたビクトールは少し照れたようないつものしかめっ面で席についた。
よほどお腹が空いていたらしくメニューの中で1番ボリュームのあるチキンステーキから手を伸ばしていた。その奥でポリアコフが胡乱げな目でディアナを見ていた。


「おい どうしたんだ。まさかヴぉくのスイートに横恋慕なんてことはないだろうな?」
「だれがスイートですの」

茶化すイノワンにディアナが突っ込んだ。この光景はスリザリンで日常化しつつある。指摘されたポリアコフが言いにくそうにビクトールの陰に隠れて 口をすぼませた。


「イくない臭い…ディアナはきっとイくない魔法使いと話した」
「善くない魔法使い?」
「……確かに昨日は学会を見学させてもらっていて 色んな魔女や魔法使いに話しかけてもらったけれど」

シャワーは浴びたわよ、とディアナが自分の髪を顔に寄せて臭いを確かめながら不安そうに返す。イノワンも肩のあたりをくんくんと嗅いだ。

「ポリアコフは野生動物並みに勘が鋭いから…。スィートは昨日の試合にいなかったのかい? すごく、熱い、ファンタスティックで、アメイジングな試合だったのに?」
「だからスィートじゃないったら」


ディアナはスープをすくいながら、興奮で語彙が落ちているイノワンの言葉を律儀に否定していった。





次の対抗試合は年明けの三ヶ月後だ。
しばらく時間が空くからか少しずつホグワーツは日常を取り戻していった。かといって湖の巨大な船や、草原の小城がいやでも目に入るので完全に日常というわけではないのだが。
よく図書室を利用するディアナはビクトールに ある女の子のことを聞かれたり、先日顔見知りになった研究者たちとフクロウで連絡を取り合ったりと忙しく過ごしていた。
12月の刺すように冷たい空気の中、廊下を小走りに歩く。中庭に差し掛かったところで進行方向の先からセドリックが険しい顔でこちらを見ているのを見つけたが、ディアナは気付かないふりで横を通り過ぎようとした。

「行かせない」
「ちょっと…」

杖腕を掴まれて、引き止められる。雰囲気でセドリックが何か怒っているのだと察したディアナは目線を合わせようとしなかった。


「ぼくが何をしたというんだ。笑いかけても無視される、目があってもすぐ逸らされる、前から借りてた参考書も人伝てに『要らない、そのまま処分してくれ』だなんてーー」

怒りに任せて勢いで口を開いたというのに、その語尾はとても弱々しいものになっていった。眉尻をこれでもかというほど下げて、セドリックはディアナの顔をうかがい見る。


「ねえ、ぼくが何かした?」
「なにも。わたし急いでますのよ」

セドリックに縋るように握られていた両手を解こうとするも、強く握られてしまった。



「君がダームストラングの男の子に笑いかけるたびに、心が痛いんだ。ぼくのことは嫌ってもいいよ、この『魔法』を解いてからにしてくれ」


真摯なグレーの瞳が まっすぐにディアナを写す。悪いことをしている という自覚のあるディアナはあまりのまっすぐさに言葉を失って固まってしまった。



「おうおう、若者たちよ…ロマンスを演じるには真冬の吹きっさらしの廊下は 体に辛いのではないかな。ハッフルパフの若者よ、相手は強かなスリザリンの女とはいえレディだろう」

掠れた深みのある声が静寂を破った。気付くと 通りがかった生徒たちの視線を一線にあびていたらしい。見かねたムーディが声をかけてきた。

「それに俺は丁度 そいつを探しているところだったのでな、すまんが借りるぞ。…マルフォイ、DADAのことで話がある。ついて来るんだ」


赤面して去っていくセドリックに続いて、ディアナの冷えた手をムーディが掴んだ。セドリックのような優しい握り方ではなく、逃げないように腕を掴んでおくという無遠慮な力加減で。
ムーディは少し屈んで、ディアナの耳元でささやいた。


「さぁ、話し合おうか預言者よ」








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