02



ワールドカップから帰宅して翌日。
朝食をとるためにリビングルームへ降りると、ドラコが先に降りていて 中の様子を伺っていた。ディアナが「おはよう」と声をかけるとドラコが困った顔をしてリビングルームを視線で示す。中から両親が言い争う声が聞こえた。
ルシウスはナルシッサに「懐かしい顔に挨拶回りをする」としか言ってなかったらしい。今朝の日刊預言者新聞で事の顛末を知ったナルシッサがルシウスに問い詰めていた。


「闇の印まで上がったというじゃありませんか!」
「しかし あれはわたしたちではないのだ」
「そんなこと言ったって、あれを出せるのはあの方を支持した者たちだけですわ! 騒ぎに巻き込まれてうちの子が怪我でもしていたら!」
「ナルシッサ、ディアナたちは無傷だよ」
「結果論ですわ! あなたやあの子たちに何かあったら…わたし…」
「ナルシッサ…」



これは入れない。
ディアナはドラコと顔を見合わせて両親がヒートダウンしてくれるまで、廊下で待っていた。結局はダウンすることなくそのまま甘い雰囲気になっていって余計に入りにくくなってしまったため、2人は温室で朝食をとることにした。温室とはいっても植物を育てる部屋とはまた別になっていて、窓が大きく光を取り込む構造になっている談話室といったところだろうか。ディアナが趣味で育てている観葉植物も多く置いてある。そのどれもがドラセナやアイビーといったマグルの元にもある安全な植物なので、学校へ行っている間も安心してしもべ妖精たちに預けていける。

今日の朝食は ふかふかのパンケーキにスクランブルエッグ、カリカリじゅわじゅわに焼かれた厚いベーコン、サラダがのったプレートだ。
昨夜のこともあって2人は無言でもそもそと食べた。今日のスクランブルエッグはチーズが混ぜ込んであってとてもおいしいはずなのに、味がしない。
ポエナに食後の紅茶を淹れてもらい、味気ない朝食を押し流すように一息ついていると、ナルシッサが様子を見にきた。
心配したわ、と2人を抱きしめる。

「お母さまごめんなさい…わたしこうなる事まで知っててお父さまに着いていったの」
「!…また夢をみたのね。ディアナのことだもの、もし何かあれば止めようとおもっていたのでしょう」


ナルシッサの生家の家系に出る予知夢の能力 故に彼女の理解は早い。
本当は 予知夢ではなく原作を知っているが故の知識なのだが、そこは怪しまれないようにうまく言い繕っていた。それに付け加えて、たまに本物の予知夢まで見るからややこしい。この能力のおかげで、ディアナの人生はだいぶハードモードだ。
ナルシッサに、ルシウスが待っていると言われて書斎へと足を向ける。扉を開けると、ルシウスはマホガニーの書斎机に座ってディアナを待っていた。


「ディアナ、今年はホグワーツで対抗試合が行われる。ダームストラングにわたしの古い友人の息子が通っているのだが…この度 対抗試合にくることになったそうだ」
「その方が、なにか?」
「お前の夫候補だ。家柄は悪くない…ロマノフ王家から派生した家系だ」

いつもなら先に見合い話が上がる。強引な話にディアナは眉をひそめた。

「お父さま…」
「お前の言い分を聞いていたら嫁き遅れてしまう」
「わたしのこの能力はマルフォイ家を守るためにあるのよ。嫁いでる暇なんてないわ」
「女は戦わなくてもよいのだ」
「守られているだけなんて嫌よ。…わたしのために遠ざけようとしてくれているんでしょう?」


ディアナは気づいていた。予知夢の能力があるからこそ、闇の勢力から利用されやすい。本格的にデスイーターが動き出す前に活動圏内であるイギリスから出したいのだ。


「その方とは一応仲良くしておくわね。じゃじゃ馬でごめんなさい」
「本当に…。うちの姫君には困ったものだ」

心底疲れたように、ルシウスは組んだ指先に額をあずけた。





マルフォイ家の長子 ディアナ・マルフォイはホグワーツに入学するまで深窓の令嬢であることで有名だった。
どこの社交界にも姿を見せない。両親と弟のドラコがダイアゴン横丁で買い物をしていても1人留守番、というのが当たり前で、人前に姿を現したのがホグワーツの入学からなのである。それまで病気説や体が弱い説、スクイブなのでは…といった噂が流れたが、入学式での弱冠10歳にして 両親の容姿を継いだにじみ出る美しさや気品、大人びた雰囲気のためか噂はすぐに消え去った。
ルシウスとナルシッサが世間から愛娘を隠していたのは、その特殊能力ゆえだった。
予知夢ーー過去この才能をもつ者の多くは 憂いて自死したり、争いに巻き込まれて事故死したりと 永く生きた者がいなかったからだ。ただでさえ幼少期に闇の帝王にも謁見しており普通の人生からは逸脱している…。結果 世から隠して育てたにも関わらず、捻くれることもなく強く美しくそだってくれたが、賢すぎるのが難点だった。
小さい頃から大人びた子どもだったが、今では魔法界の情勢や大人の事情を鑑みた上で発言をする。

家に籠っているときに本を読ませすぎたか?外の情報が知りたいというので新聞を渡したのは間違いだったのか?ーー後になってから反省点は尽きない。
やさしい子なのだ。それでも賢い子ほど苦労をする。

今や、闇の帝王が再び現れるのではと噂されている。そんなときに年頃になった愛娘がいれば どうなるか。想像に難くはなかった。
だからこそ、イギリス魔法界から離してしまおうとしていたのに、ディアナはあれやこれやと掻い潜ってしまった。
これから先、ルシウスは家を守るので精一杯になってしまう。

「じゃじゃ馬でごめんなさい」

と言ったディアナに、ルシウスは深くため息をついた。

「うちの姫君には困ったものだ」
「自分の身は自分でなんとかするわ。お父さまはお母さまとドラコを守ってあげて」

こんなことを 平気で言う娘だから、本当に困るのだ。自分がどれほど愛される存在かわかっているのだろうか。いや、それを分かっていたの「じゃじゃ馬でごめんなさい」なのだろう。
ルシウスはディアナの腕を引いて 強く抱き寄せた。








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