03



ホグワーツへ出発する朝、ルシウスの元に小型の森フクロウで緊急電報がはいった。まるでメッセージカードのような走り書きの小さな電報に目を通して、ルシウスはにやりと笑う。
朝食のプレートのハムエッグをつついていたディアナは、同じくプレートの中のひよこ豆のトマト煮を口に運んでいたドラコと目を合わせた。なにやら父の利になるようなことが起きたらしい。


「2人とも、マッドアイの話はしたな?」
「ええ、腕利きのオーラー…闇払いが今年から教員になるかもしれないのでしょう?」
「阻止できるかもしれん」


マッドーアイ・ムーディがホグワーツの教員に指名されたことを聞き及んでから、ルシウスはこの夏の間中口すっぱく「奴には近づくな」と言い続けていた。
デスイーターの敵であるムーディは、ルシウスの所業も知っている。ストイックなことで有名なムーディのことだ。教員になればデスイーター疑惑のかかっていた家の子にも 容赦なく指導という名の罰を与えるだろうということは想像にかたくなかった。ディアナもナルシッサから「ドラコを見ててあげてね」と頼まれているのだった。
呼び止める妻 ナルシッサを制して、ルシウスは森フクロウを連れて書斎にこもってしまった。

「全く、家族で食べる最後の朝食だというのに…」

ナルシッサは口を尖らせて、ルシウスのプレートをしもべ妖精に下げさせた。原作知識のお陰で、気に入らないウィーズリー家を貶める機会に浮かれているのだと知っているディアナは口の中のハムエッグをコーヒーで押し流した。







結局ルシウスはホグワーツ特急の見送りに間に合わなかった。
原作ではアーサー・ウィーズリー氏が出てきて事をおさめていたはずなので 犬猿の相手が出てきて、ルシウスもヒートアップしてしまって引くに引けなくなってしまったのだろう。それと一緒にナルシッサの怒りもヒートアップしているようで、子どもの前ではにこやかに接するも、端々にちりばめられたルシウスへの怒りがそれを表していた。ディアナは帰宅後の夫婦喧嘩で また部屋が吹っ飛ばないかを心配した。
反比例するようにドラコのテンションは下がっていた。大好きな父の見送りがなかったのだから当然だろう。シリウス・ブラックのように耳やしっぽが生えていたなら、わかりやすく垂れていたのだろうなとディアナは思った。
ホグワーツに特急に乗り込んで、ディアナからキャンディをもらい、同級生と夏の過ごし方について話し、ポッターたちを見掛けたころにはもうすっかり元気だったので心配は要らなさそうだ。素直な性格なまま育っている弟の姿に、ディアナはホッとしていた。この夏はデスイーターのパレードのこともあったので尚更だった。
ポッターにきゃんきゃんと噛み付いている弟の後ろ姿を見送って、ディアナは先頭車両を目指した。今年も監督生に選ばれているのであった。慣れもあって去年ほど大変ではなさそうだし、なによりブラックの脱走事件も落ち着いたので今年は 少しはたのしく過ごせるといいと願うばかりだ。





「…といいなーと思っていたのに、初日から大雨に降られるし」


ホグワーツに着くころには、外はバケツをひっくり返したような雨だった。日は暮れていて真っ暗だし、雷は轟いているし。
下級生の引率は今年5年生の監督生に任せたが、スリザリン生たちに防水魔法をかけていくのはディアナしかできなかった。ホグワーツ外での魔法の使用権限については、監督生だからということで多少免除になる。それに加えて大勢に防水呪文をかけるほどの精度とスタミナが、ディアナしか持ち合わせていなかったのだ。
…対象がスリザリン生のみ というあたりは流石身内びいきのスリザリンである。グリフィンドールの双子が恨みがましい視線がきたが、そこは無視だ。防水呪文を掛けてほしいなら自身の寮の監督生に頼めばいい。


「わたしたちは助かったわよ」
「そうよ、下級生たちも憧れの目であなたを見ていたし 女王様のファンがまた増えちゃうわ」
「メアリたちが濡れなくてよかったですけどね…」


魔法を使ってへろへろのディアナの脇を固めるように、友人たちが支えてくれる。彼女たちが濡れて風邪をひいたりしないならば、まぁ 報われる。
悪天候のせいでか玄関ホールは混んでいて、ようやく屋根のあるところに入ったディアナは、列がなかなか進まなかった原因を見た。
ピーブズが暴れていて、生徒たちに水風船を投げつけているらしい。



「どうせビショ濡れなんだろう? ウィィィィィ!!」
「煩いですわよ」

ピーブズが女子生徒の集団に向かって投げた水風船に、魔法をかけて人にあたる前に破裂させる。もう一度それに魔法をかけて、水しぶきを花びらにかえた。辺りに色取り取りの花のシャワーが降る。


「前を行くグリフィンドール生、早く進みなさい。後ろがつっかえてるんですわよ」
「うおおおぉぉ マルフォイィィ! 邪魔すンなよォォォォ!!」
「聞こえなかったの? お黙りなさい」


ピーブズを睨みつけたはずが、見物していた生徒たちが黄色い悲鳴がきこえた気がした。「女王さま」と囁く喜色の滲むそれに どっと疲れて、隣のメアリに寄りかかる。

「ピーブズ、校長先生を呼びますよ!」

見兼ねたマクゴナガルが応戦してくれて、ピーブズはベーッと舌を出して大理石の階段の上へと消えていった。
ようやく大広間へと入って、テーブルへ着く。大広間は例年のように学年始めの祝宴のために見事に飾り付けられていた。寒い外から入ってきたので、温かい色合いの 浮かぶロウソクの灯りや、見慣れたスリザリンのタペストリーを見て 皆がほっとひと息をつく。
ホールを見回すと、他の生徒たちは靴を脱いで水を捨てたり、髪をおさえて水をしぼったりしている。スリザリン生はといえばディアナの魔法のおかげで快適そうにお喋りを続けていた。


「さすが 女王様! 玄関ホールの啖呵はよかったぜ」
「花びら綺麗でした! あれは何ていう魔法なんですか?」
「あの…あの…、列車から出るときに魔法かけてくれてありがとうございました」


次々と声をかけられて、ディアナは笑顔で応対していく。その裏で 隣に座るメアリにこっそりと本音をつぶやいた。

「そんなことより、はやく食事が始まらないかしら。お腹すいちゃったんだけど」
「女王さまは素直じゃないわね」


見た目のクールビューティとはちがって、女王さまは身内に甘いのだ。
1年生の組み分けの儀式を横目にしながら、ディアナは口をとがらせて目の前に置かれた 磨き上げられたカトラリーセットを指でなぞった。










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