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学期末、校長室に呼び出されたディアナとセブルスはダンブルドアとともに事の顛末を整理していた。
ダンブルドアからシリウスの事情を聞いたセブルスは、怒りとショックで顔を赤くするやら青くするやら、ディアナは血管が破裂してしまうのではないかとハラハラしていた。

「では、ペティグリューが秘密の守人であり真犯人で、ブラックは巻き込まれただけだと?」
「さよう」
「ディアナ、お前は知っていたのか…」

今まで愛する人が亡くなった原因を作ったのがブラックだと思っていたセブルスからしたら、世界がひっくり返るような事実だろう。真犯人がずっとホグワーツにいたのだから。
怒りの矛先が自分に向くのを感じて、ディアナは止り木にとまる優雅な不死鳥へと逸らしていた視線を戻した。


「そうね」
「また予知夢の力か…。わたしばかりが情報を持たずに右往左往しているのではないか?校長もお前も秘密が多すぎる! 」

ダンブルドアが一部始終を昨夜ブラックから聞いたとしても、全くもってその通りだとディアナは反論しなかった。
セブルスはこれから二重スパイとして活動する機会が増えるだろう。その分危険度は増すし、前もっての情報が大切になる。


「セブルスの怒りも最もだと思うわ」
「お前もお前だ。知っているくせにいつも危険な目に遭いおって…人がどれだけ心を砕いていると思ってる!」
「わたしなんかに? セブルスが?」
「自分を軽く見過ぎではないか? 小さい頃から知ってるんだぞ!」

セブルスが自分のことを重く見てくれているということだろうか?下心たっぷりにディアナは嬉しかったのだが、セブルスは本気で怒っているようだ。
口元がにやけてしまうのに、セブルスの怒りが怖くて笑うに笑えないディアナの代わりに、ダンブルドアがくすくすと笑っている。なぜダンブルドアが笑っているのか知らないセブルスは更に機嫌を悪くしたようだ。


「わたしの予言は特殊だから…」
「予言自体が特殊だろうが!これ以上なにが変わるというんだ」
「わたし、前世の記憶があるんですわ」

目の前の不死鳥が瞑っていた目を向けてきた。その瞳は七色に輝いているーーその球体にディアナが映り込んでいた。
この不死鳥も何度も生まれ変わっているはず。その度に違う人格なのだろうか?それとも同じ? 人語を操らない彼らに話を聞くことはできない。


「前世で この世界はおとぎ話だった。読み物だったの」
「…はっ、常識を超えておりますな。この世が本の中だと?」
「少なくともわたしが知っているその物語と、この世界の出来事はリンクしている事が多いんですわよ。…わたしだって信じたくないですわよ、そんな未来」

さすがに「何を言ってるんだこいつ」といった眼差しを向けられると傷付く。ディアナは口を尖らせた。


「だからわたしは簡単に介入しかねるんですわ。わたしの知っている未来に進んだ方が…ハッピーエンド。でもわたしが何かして踏み外してしまったら?」
「…お前はかなり踏み込んでいるようだが?」
「あら、それはマルフォイ家の危機も知っているんですもの。できるだけ回避したいじゃない?」


もちろん、原作の大元から外れない程度にだ。今回のイベントでペティグリューを捉えてしまえばヴォルデモートの復活を阻止できるかとおもったのだが、失敗してしまった。
前年度の秘密の部屋の時も上手くいかなかったので、もしかしたらディアナごときの力では運命は変わらないようになっているのかもしれない。


「ちなみに、予知夢もちゃんと視るんですのよ。母方の血筋にたまに出るんだそうで」
「…なんてチートな能力なんだ」
「前世の行いがよかったんですわね」

セブルスはあきれたように額に手を当てた。ダンブルドアは楽しげに笑っている。

「セブルスが振り回されておるのを見るのは楽しいものじゃのう」
「あなたがそれを言うか!」

ディアナもそれはおもった。セブルスを1番振り回しているのはダンブルドアではないだろうか。






のちに逃げたシリウスの回収や騎士団の計画を話し合い、今回はお開きとなった。
今日は学期最期の日。生徒も教師も、それぞれにやることがたくさんある。
校長室から廊下へとつながる階段を下りていく。今頃試験の結果が張り出されている頃だろう。皆大広間へと集っていて、廊下には人っ子ひとりいない。

「お前は見に行かなくていいのか?」
「手応えはありましたからね…悪い成績ではないかと」
「ほとんどがO(大いに宜しい)だ」
「よかった、このまま行けば無言者になれるかしら?」


ディアナは将来の進路として魔法省の神秘部を希望していた。その旨は両親にも寮監のセブルスにも伝えてある。


「本気だったのか」
「進路指導のアンケート用紙に書いたじゃありませんか。夢や予知はわたしに関わるし…セブルスはわたしが不気味?」


前世の記憶があり、子どもらしくない子ども…実際に精神は大人のものだ。このことは実の両親にも言えていない。
セブルスも校長室での説明で合点がいったようだった。「子どもらしくない可笑しな子ども」だと思っていたのだろう。見上げると、相変わらずのポーカーフェイスと目があった。


「………、お前はお前だろう」
「なんですの、その間は」
「どうせまた下らん心配をしていたのだろう、顔に出ている」

ディアナがどういう意味かと考えあぐねていると、眉間を指で弾かれた。


「わたしを信頼してくれるのは嬉しいが 気をつけなさい。立場を考えてくれ」


それは どういう意味?ディアナはどきりとした胸を押さえ込み、顔色を変えないように唇を強く噛んだ。
この場合の立場とは、セブルスが二重スパイをしていることだろう。これから雲行きは怪しくなってくるし、いつまでも見方ではいられないという警告だ。決してディアナが望む解釈ではないのだろう。
関係ない生徒にはスリザリンの才女のクールビューティな顔で対応できるが、身内になるとどうしても表情が出過ぎてしまうのは、ディアナも自覚していたが…。


「その言い回しは卑怯ですわよ…」
「…なんの話だ」


セブルスの顔には「心底訳がわからん」と書いてある。ディアナは胸ポケットの銀の栞に手を当てて小さくため息をついた。


「今学期最期にお茶しましょ、まだ話があるんですの」
「…また面倒なことじゃないだろうな」
「前世の記憶があることについてですわ。読み物っていったでしょ、セブルスの過去についても書いてあるんですの」

そう言うと、セブルスは目を見開いた。ディアナは ぴくりとこめかみの辺りが痙攣するのを見逃さなかった。そこまで黒歴史なのか。


「確認が必要ですな? 洗いざらい話してもらおうか」
「いやだ 教授、目が怖いですわよ」


くすりと笑うと、セブルスは嫌な顔をした。
監督生の仕事はペアの男子生徒に任せてきたから大丈夫だろう。地下の魔法薬学研究室へ颯爽と歩いていくセブルスの後ろをついていきながら、ディアナは来年もこの関係が続くことを願った。










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