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結論から言おう。
ペティグリューには逃げられてしまった。
加勢しようと ディアナの元に残ったポッターを庇いながらの戦いで 時間がかかってしまい、森から吸魂鬼の群れが姿を現したのだ。
ポッターとディアナのパトローナスで追い払いはしたが、逃げ惑って転んでしまったハーマイオニーが檻を落としてしまった。どうにか逃げようと檻から半身を出していたペティグリューはその反動で外に出てしまったのだ。
気を失ってしまったポッターたち3人と、はじめてパトローナスを出して動けないでいるディアナを 気がついたセブルスが回収した。





「言語道断…誰も死ななかったのは奇跡だ…スネイプ、君が居合わせたのは幸運だった。Ms.マルフォイも…監督生としてよく勤めを果たしたね」
「恐れ入ります」

ふんふん と興奮した様子で歩き回る大臣に、セブルスは慇懃に返した。ディアナは椅子に腰掛けて、パトローナスを出して倒れたときにできたたんこぶを冷やしながら会釈する。


「1番驚かされたのが吸魂鬼だよ…Ms.マルフォイがパトローナスを?」
「はい、閣下。もう必死で…騒ぎに聞きつけて校庭に出たら ブラックとポッターたちが吸魂鬼に囲まれていて…。パトローナスを出したら身体が動かなくなってしまって…スネイプ先生が気付いて外へ出て来てくれて幸運でしたわ。…ブラックを捕らえ、皆を担架に乗せてくれました」


まだ魔力が回復しておらず やっと、といった様子で答えれば、大臣は気遣わしげにディアナの肩に手を置いた。
ホグワーツに戻る間にセブルスと口裏を合わせた。まだセブルスにも詳細は話していない。あとで聞かせろ、とセブルスはギラつく目でディアナに睨みつけてきた。それにうなづいて、たんこぶを冷やすための氷嚢を持ちかえる。からり、と中の氷がなった。

ブラックは別室で拘束されている。ディアナはシリウスの真実を話そうとも思ったが、証拠のペティグリューが逃げてしまっては信じてはもらえないだろう。悔しいが、口を閉ざした。
目の前で連れて行かれたシリウスの 後悔の入り混じった灰色の瞳を思い出して、ディアナは唇を噛んだ。もうすぐ、役人が吸魂鬼を引き連れてやってきて、シリウスにキスを執行する。

カーテンで仕切られた隣からポッターの声が聞こえた。どうやら気がついたようだ。
ファッジはディアナに断りを入れ、セブルスを伴ってカーテンの向こう側へと姿を消した。これからのことを話すのだろう、ディアナはようやく休めると 息をついて目を閉じた。






「さて、もうよいじゃろう」

ダンブルドアがカーテンを開けて、穏やかに笑った。
ファッジ大臣とセブルスを追い出し、ポッターとハーマイオニーを逆転時計で過去に送った後、息を潜めて様子を聞いていたディアナは目を開くと 顔をしかめてダンブルドアを見上げた。

「…ペティグリューの捕獲に失敗しましたわ」
「詮無いことじゃ。これは変えることのできない運命のひとつだったのじゃろう。…君は立場を変える気はないのじゃろう?」
「もちろん」

ペティグリューが逃げ果せ 帝王の復活にまた一歩近づいたからといって、完全に闇に染まる気はなかった。
自分が望む未来のため、セブルスのように二重スパイという器用なことはできなくても スパイくらいはできる。

「ならよいのじゃ…。そろそろハリーたちが戻ってくる頃じゃ、わしはここから退散するとしよう」
「はい。…万事上手くいきますように」
「わしはハリーを信じておるよ」

にっこりと慈愛の満ちた表情でダンブルドアは医務室の扉をしめた。
偉大な魔法使いと褒めそやされたダンブルドアと選ばれた男の子、ダンブルドアは彼を愛しているのだろう。ディアナはポッターのプレッシャーをおもって、本日2度目のため息をついた。
そのとき、ダンブルドアが出ていった扉が開いてポッターたちが戻ってくる。
驚いた様子でディアナをみつめるポッターとハーマイオニーを ジェスチャーでベッドへ戻らせ、ようやく医務室に戻ってきたマダム・ポンフリーに「頭がいたいので横になりたい」と申し出る。
今頃シリウスが逃げたことを知ったセブルスが怒りに怒って 医務室へ向かっていることだろう。
当たられたくないディアナは、ベッドに潜り込んで狸寝入りを決め込んだ。

廊下が騒がしくなってきた。静かな城内によく響く。怒れるセブルスが医務室の扉を乱暴に開けるまで、あと数十秒…。








翌日、ポッターたちに気づかれないように早朝に医務室を出ると、廊下で睨み合っているドラコとセドリックの姿をみつけた。といってもセドリックが一方的に睨まれているだけのようなのだが…。


「珍しい組み合わせね」
「姉さま!」

掛けてくるドラコを両手を広げて受け止める。その後をセドリックがゆったりと歩いてきた。

「大変だったらしいね…もういいのかい?」
「ええ、わたしは頭を打っただけなのよ」

2人とも見舞いにきてくれたのだろう。
髪をかきあげて、おでことの境にできた こぶを見せるとセドリックは安心したように肩の力を抜いた。ドラコは「なんてことだ…」とただのたんこぶでさえ狼狽えていた。

「よかった。…これお見舞い」
「チョコレートじゃないわよね?…よかった、マダムに散々たべさせられたのよ」

セドリックからトフィーの袋をもらった。手作りっぽいのでホグワーツの厨房で用意してもらったのだろう。ハッフルパフの入り口近くに厨房へつながる絵画があるため、ハッフルパフの生徒たちは密かに厨房を懇意にしている。
顔も見れたし、とセドリックは寮へと戻っていった。今日は試験が終わって最後のホグズミード行きなので、監督生は生徒をまとめる仕事がある。
ディアナもスリザリンへ急ごうとすると、ドラコに引き止められた。


「ドラコ?」
「もう1人の監督生に任せてきたから大丈夫…。あいつ、いつも姉さまに仕事を押し付けてたからこれくらいやってもらわないと」

だから今日は部屋でゆっくりしてください、とドラコはディアナをみつめた。


「無事でよかった。…たんこぶはあるけど」
「心配かけたわね」


恐ろしい脱獄犯と吸魂鬼に立ち向かったという話を聞いて、居ても立っても居られなかったのだろう。ドラコが同じことをしたらディアナも無事な姿を見るまでは落ち着かなかったと思う。
真実を隠していることには後ろめたさがあったが、ディアナはそれから目を背けるようにして震えるドラコを抱きしめた。それは小さい頃から変わらない 家族のあたたかさだった。









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