11 ホグズミード行きがクリスマス休暇直前だったことが幸いした。 セドリックとのデートは生徒たちに目撃されていたようだが、この休暇間に鬱陶しい噂は消え去るだろう。 あとは休暇中に面倒なクリスマスパーティを終えればいいのだ、とディアナは笑顔を貼り付けながら シャンパングラス片手にパーティ参加者に挨拶をする。 パーティ会場には名家で純血のパーティでよく合わす顔や、幾人かは初めての顔もある。そのどれもが仄暗い経歴を持つ者ばかりだった。なかには魔法省重鎮の顔も見かけて、ディアナは頭の中の参加者リストを更新していく。何人かはサロンのメンバーも見かけて、互いに人差し指を口元に当てた。「ホグワーツから出たらサロンのことは漏らさない」ということにしている。あれは学校にいる間だけの人脈作りと情報交換の場所だ。その生徒たちも皆一様に闇の勢力に加担していたとされる家の子だった。こんな怪しげなパーティに参加しているのも、全てはルシウスの采配だ。 「お前も15歳だ、業界の者とも顔合わせをしなさい」 と言って連れてこられた屋敷で、ディアナはグラス一つで粘っていた。こんな怪しいパーティで 飲み物に口を付けたくはない。 この屋敷のしもべ妖精に「どこどこのメーカーのジンジャーエールを」と注文をつけて持ってこさせたものを お守りのようにして持っている。連れてきたルシウスはといえば 上の階にある主要人物の集まりに顔を出してくる、といったきり帰ってこない。 「マルフォイじゃないか」 できるだけ壁際へ移動して話しかけられないようにと気配を絶っていたというのに、ディアナは舌打ちを漏らしそうになった。 「フェブリー…」 去年一昨年としつこくディアナに言い寄った男子生徒である。去年度まではディアナに近寄るとトイレに転送されてしまうという魔法を掛けられていたが、今年はさすがにその魔法も切れている。 近寄ってこないということは懲りたのか、それとも7年生だから多忙なのかと 安心していたが、パーティで話しかけられては逃げられもしない。ディアナは上品に手のひらで口元を隠しつつ、内心では悪態を吐く。 「見られなくもないな、流石俺が選んだ女だ」 はいはい そういうとこ。遠慮もなくディアナのイブニングドレス姿をを舐めるように見ている。フェブリーのタキシード姿も、黙っていれば様になっているのにもったいない。 ちなみにディアナのイブニングドレスは 足先まで 緩くドレープのかかった紺色のワンピースに、手の甲まで袖のある肩出しの白レースのトップスだ。深く開いた胸元と 耳には揃いのネックレスとピアスが輝いている。 「なぜ貴方がここに?」 「知らないのか?」 意外だというようにフェブリーは驚いてみせ、にやりと笑った。 「お友達かい?」 「お父様」 やっとルシウスが帰ってきたらしい。サロンで焚かれていたのか 知らない香水のにおいをさせて、ルシウスはディアナの背後から肩に手を置いた。 「Mr.マルフォイ、お見知り置きを…プルートゥス・フェブリーです」 「スリザリンの7年生ですわ」 「ああ、フェブリー不動産の…」 フェブリーの家は魔法建物の不動産をやっている。魔法界につながる建物の管理や売買である。 ディアナの記憶では後ろ暗いことのない会社だったが違うようだ。ルシウスがにやりと悪い笑みを浮かべたのを見て、「これはやはり闇陣営に関わるパーティなのだ」と思い知る。 「君のお父上と話があるのだが」 「はい、ご案内いたします。ディアナ またな」 先ほどのルシウスと同じ類の笑いを浮かべ、フェブリーはルシウスを引き連れて人混みの中へと消えていった。 ディアナはさり気なく辺りを見渡す。 男性はコートだが、イブニングドレスを着ている女性陣も皆一様に肩を出さないデザインのドレスを選んでいる。そう、闇の印がある辺りだ。 まだ帝王は復活はしていない。しかし、デスイーターたちは確実にその存在を感じているのだ。これで花園(サロン)のメンバーがこのパーティについて誰も知らなかったこともうなづける。大体の親は 子どもに悪事をさせたくないと思うだろう。誰にもこのことを話していなかったのだ。 このパーティはその準備と情報交換の場なのだろう、とディアナは粘つくような唾を必死に飲み込んだ。 休暇が明けてすぐ、ディアナはセブルスの部屋へと駆けた。セブルスがまたか、と態度に出すも お茶の用意をしてくれようとするのを制して話をすすめる。 「クリスマスパーティ?」 「ええ、デスイーターばかり…教授は誘われなかったんですの?」 「いや…ルシウスから何度か。お前の見合いも兼ねたものだとばかり…」 学校の用事があるからと断ったらしい。ディアナの見合いパーティだと来れないというのはどういうことだろうか、むしろ来てぶっ壊してくれていいのに と怒りたいのを我慢して見聞きしたことを伝えていく。 参加者、規模、屋敷の様子、会話の内容まで。 「闇の帝王が生きているのでは、近くに来ているのではという噂は少し前からたっていた。だが行動が早いな…」 人差し指を唇当てて少し考えるようにしてから、セブルスはダンブルドアに報告することに決めたらしい。 杖を軽く振ってお茶の準備をし、ディアナの頭をぽんぽんと大きな手が包む。 「よくやった」 お茶はディアナへの報酬ということなのだろう、何も言わずにセブルスは校長室へと行ってしまった。 気が抜けたようにソファに座って ディアナはしばらく動かずにぼーっとしていた。 気付いたようにアンティークのカップをすいっと手に取る。ポットがひとりでにゆっくり傾いて、カップに紅茶が注がれるーーディアナの好きなダージリンだった。 一口飲んで、行儀悪くソファにもたれる。 ソファから どこか薬草のようなほろ苦い香りがした。 「セドリックにまでバレてるんだから自重しなくちゃいけないのかしら」 カップをソーサーに戻して、ソファに倒れこんだ。先ほどの手のひらを思い出しては ディアナはソファの上で悶えていた。 |