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クリスマス休暇が近づいてきた。
今年のホグズミード行きは休暇が始まる少し前に計画されていて、プレゼントを買いに皆が浮かれて出かける用意をしていた。
大広間ではフリットウィックがツリーを妖精の光で飾り付けていたし、廊下でマクゴナガルとフーチがホグズミードに飲みに行かないかという会話をしているのを耳に挟んだ。先生たちも 久しぶりに外の世界に出る機会なのだろう、羽を伸ばすのだろうなとメアリと話していた。
そういうメアリは恋人とデートをするらしい。ディアナから化粧道具をかりて、きれいになった。

「とっても綺麗よ」
「ディアナのおかげね…。ねえ、スネイプ先生の話し長すぎない?」


ホグズミードに行く前には寮監から注意・禁止事項の説明があって、簡単な服装検査をする。あまり派手な格好での外出は許されていないからだ。ホグワーツの学生として品位を保たねばならない。
たしかに、今年のセブルスの『お話し』は長かった。それもシリウス・ブラックや吸魂鬼のことがあるからだろう。

「真面目よねー、他寮から受けは悪いけど」

メアリが待ちきれなくてそわそわしだした。他の生徒も落ち着かなくなってきたからか、セブルスは話を切り上げ形ばかりの服装検査にうつった。

「お土産いります?」
「いらん」
「心配しないで、ただの友だちなんだから」

すれ違いざまに囁けばセブルスはふん と鼻を鳴らした。ディアナは困った顔をするしかなかった。






セドリックとの待ち合わせはホグズミードの叫びの館前だ。ここなら物好きな生徒しか訪れないので、万が一 セドリックやディアナが1人で相手を待っていても「一緒に行こうよ」などと誘われることもない。

「お待たせ」

暗いグレーのピーコートに、明るい色のマフラーが差し色になっていてかっこいい。ハンサムは私服のセンスも良いらしい。
ディアナはというと膝上まで隠れるネイビーのチェスターコートに、細身のパンツにブーツを履いている。防寒重視しすぎた感があるが、ファーのピアスやメイクで、程々おしゃれには見えるはずだ。

「待たせたわね」
「ぼくも今来たところだよ」

鼻の頭は冷えて真っ赤だし、足元の雪はセドリックの周りだけ踏み固められている。嘘が下手というよりは、自然にそう言っているのだろう。

「コースは決まってるの?」
「歩きながら話そう。君が気に入ってくれるといいけど」


たどり着いたのはホグズミードでも最近出来た店らしかった。カラン、とベルを鳴らして木製の扉を開けると香ばしい焼き菓子の香りがした。
カフェとキャンディストアが併設されたお店らしい。
ショーウィンドウの中には他にはジンジャーブレッドやウェルシュケーキ、色とりどりのカップケーキが並んでいる。
ストアのところには飴が量り売りで売られていた。ハニーデュークスのようなネタに走ったものではなく、ここの魔女がつくった季節ごとのフレーバーのものだった。照明に照らされて、一つ一つが宝石のようにかがやいていた。

「ディアナ、キャンディが好きだっただろう?」
「とても!」

散々悩んだ挙句全てのフレーバーを少しずつ買って、ディアナはほくほく顔でお店を出た。セドリックもちゃっかり試食でお気に入りの飴を見つけて買っている。
本当はカフェスペースでお茶でもしようかと話していたが、混んで来てしまったので先に買い物を済ませることにしたのだ。
次はディアナの希望で雑貨屋に入って友人へのクリスマスプレゼントを見繕ったり、箒店へ行ってセドリックの箒磨きのペーストを買ったりした。今季2度目の試合ではレイブンクローに負けてしまったので、休みの間によく磨いて気合を入れるようだ。

雪がちらついて寒くなって来たので、休憩と暖を取るために三本の箒に入った。店の中は人でごった返していて、いつ来ても騒がしい。スリザリンとハッフルパフがデートしていても、だれも見咎めるものはなかった。
カウンターの方はマダム目当ての魔法戦士で混んでいたので、奥のテーブルに腰を下ろす。セドリックがスマートにリクエストを聞き出してくれて、注文に行ってくれる。どこまでも紳士な人だ。
コートを脱ぎながら辺りを見ていると、グリフィンドールの3人組ーーポッター、ウィーズリー、グレンジャーの姿があった。
ドラコが散々騒いでいたので、ポッターはホグズミード行き許可証がもらえなかったと記憶していたが…原作通りに抜け道から来たのだろう。3人は美味しそうにバタービールを煽っていた。

「はい、ジンジャー多めのエッグノッグ」

目の前に湯気のたったマグが置かれた。セドリックが自分のバタービールのジョッキを持って隣に座った。
エッグノッグとは、年末によく飲まれる シナモンなどのスパイスが効いた温かいミルクセーキである。厳密には違うけど、だいたい合ってると思う。

「セドリックのクィディッチ命運に」
「君の瞳にもねーー乾杯」

グラスを軽く合わせて、飲み物に口をつける。冷えた体によく沁みる。セドリックの文句は、聞こえないふりをした。


「まさか男の子があんな可愛い店知ってると思わなかったわ」
「カフェのこと?あれは女子生徒に聞いたんだよ」

バタービールの泡を口の上につけながらセドリックが朗らかに笑う。
それはその女子生徒がセドリックと行きたかったのではないだろうかとディアナは気付いたが黙っておいた。そのお陰でキャンディをゲットできたのだから。

「よかったわ、沢山買えて。勉強しながらだとすぐになくなっちゃうのよね」
「OWLの勉強? ぼくもクィディッチがひと段落したらはじめなきゃな」
「お互い大変よね、監督生もあるんだから」

先のポッターが箒から落ちた事件でダンブルドアが一括したのが効いたのか、吸魂鬼は大人しくなった。それでも警戒は緩まない。何かあってからでは遅いからだ。
幸いスリザリンの一年生たちは聞き分けがいいが、グリフィンドールは肝試しをしたり悪戯を仕掛けようとしたりで大変らしい。監督生がぐったりしていた。女子生徒とは仲がいいので飴を差し入れたりもした。ディアナが飴好きなのを知っていたようで、喜んでいた。そういえばセドリックも知っていたなと思い当たる。

「わたしがキャンディ好きなの、そんなに有名?」
「そうだね、色んな人に配ってる」
「配ってるわけじゃ…」

なんだかおばさんにでもなってしまったようで、ディアナは顔をしかめた。実際精神年齢はおばさんで合っているのだが、認めたくはない。


「小さい頃に ある人に『頑張ったご褒美に』ってもらったのよ、そのキャンディがとても美味しくてね」

はまったのはそれからだろうか。そのある人はキャンディをくれた事も忘れているかもしれない。

「キャンディってもらうだけで元気になるじゃない。だから…」
「わかったわかった、そんな必死にならなくても」
「セドリックが年増扱いするから」
「だれもおばさんみたいだ なんて言ってないじゃないか」


いや、その通りなのだが。
いつもは思慮深くて大人っぽいセドリックが屈託無く笑っている。からかわれただけらしいと気付いてディアナは口をつぐんだ。バーの雰囲気と騒めきの中で、調子が狂ってしまう。
くつくつと抑えるように笑いながら、セドリックが小さな紙袋を取り出した。細身のシンプルなリボンがまかれている。

「これ、さっきの雑貨屋で見つけたんだ。付き合ってくれたお礼とクリスマスプレゼントに」

綺麗にカットされた赤瑪瑙がはめ込まれた髪留めだった。美しい模様の銀メッキで縁取られている。雑貨屋で熱心に見ていたのはこれだったらしい。

「縛った跡がつかないようになってるんだって…似合うと思って」
「高かったんじゃない?受け取れないわ」
「それじゃあ今日のお礼ということだけでもいいよ。クィディッチの試合を頑張れたし…今日はとても楽しかった」

髪留めを持っている手を、そのまま包むように握られる。切ないように細められた目を見てしまって、ディアナは目をそらした。そんな表情はされたら断りきれない。


「わたし、クィディッチのお守りしか買ってないわよ」

箒専門店で売られていたミサンガに似たチャームを渡すと、セドリックは「大事にするよ」と嬉しそうに受け取ってくれた。

気づけばバーカウンターの方ではホグワーツの教師陣が魔法大臣とシリウス・ブラックについて話している。ポッターの出生についても議論しているようだ。
こんなだれが聞いてるとも知れないところでーーと呆れて、ディアナはエッグノッグを一口 口に含む。
セドリックもカウンターの方に気付いたようで、ポッターの話題が聞こえたようだ。


「彼のーー箒のことも残念だった。いい箒が次の試合までにみつかればいいんだけど」
「…そこは安心して大丈夫よ。より強敵になってピッチに戻ってくるから」
「ディアナのいつもの予言? じゃあもっと練習しなくちゃ」
「あなたもクィディッチ馬鹿ね」

クィディッチについて熱く語るセドリックに、ディアナは肘をついて見守るに徹した。




三本の箒を出る頃には、空は暮れかけていた。冬だから暗くなるのが早いだけで、ホグワーツの夕食には間に合う。
雪を踏みしめながら帰路についていると、セドリックが隣でポツリとつぶやいた。


「ねえ、君がスネイプ先生を目で追ってるのは知ってるんだ」

いきなり何を言いだすのだろう。ディアナは立ち止まって数歩先を行ったセドリックを見つめる。

「それでも君が好きな気持ちに嘘はつけないよ」
「…本当に馬鹿正直ね」


俯いているセドリックのずれたマフラーを直してやる。

「わたしはそれに応えられないけど、想うことは自由なのに」
「迷惑じゃないかい?」
「いいえ。…わたしは良き友人でいたいのだけど?」

次はセドリックが顔をしかめる番だったようだ。

「男女の仲は 友人か恋人しかないのかい?」

そりゃああわよくば恋人になりたいけど と付け加えてアピールをするあたり、このハンサムは強かだと思う。

「わたし、年上が好みなの」
「スネイプ先生は上すぎない?」
「わたしの精神年齢が高いのよ」

雪を踏みしめながら会話を続ける。セドリックがくすりと笑った。

「なるほど、だからキャンディなのか」
「セドリック・ディゴリー 恋愛ポイント 50点減点」

こうして冗談を言いながら、適度な距離感でいるのがたのしい。セブルスもこの想いに気がついているのだろうか、そして見て見ぬ振りをしてくれているのだろうかと考えながらホグワーツへと帰った。バッグの中の髪飾りがズシリと重くなったような気がした。









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