09




クィディッチ当日はすごい悪天候だった。
マグルだったらこんな天気の中でスポーツはしない。風は吹き荒れるわ、雨が目や口に勝手に入ってくるわ、選手だけではなく観客の方も大変な試合になることは決定だ。
そんな天候でも生徒たちは観客席に押し寄せた。それは期待のポッターvsハッフルパフのハンサムだからなのか、ただ単にホグワーツに娯楽というものがないからなのか。
ディアナも自分のローブに防水呪文を掛けてハッフルパフ側の応援席についた…見にきているスリザリン全員がハッフルパフ側にきている。
ピッチには赤のユニフォームとカナリアイエローのユニフォームが位置についていた。雨と風であまりはっきりとは確認できなかったが、ディゴリーと目があったような気がした。口元には笑みを浮かべていた。

「ディゴリーったら笑ってるわ。すごい余裕!」

隣でメアリが耳打ちをしてくる。ディアナは先週の「応援に来てくれるか」と言った真摯な瞳を思い出しながら生返事をした。
セドリックはチョウと付き合うのではなかっただろうか…それともディアナが存在していることで少しずつズレが生じているのだろうか。ディアナは自分が知っている未来から離れていくことを危惧していた。

ホイッスルの鋭い音が、雨風の中耳に届く。選手たちは一斉に空へと飛び立ったーー試合開始だ。
この嵐の中、視界はかなり悪い。箒の操縦もうまくいかないようで選手はかなり手こずっているようだった。「棄権して正解だったな」という声がスリザリン側から上がるのを耳にした。
シーカーの怪我を理由に棄権したのはよかったかもしれない。こんな天候ではやる方も見る方もしんどいだけだ。教師陣も試合を延期すればよかったのに。
競技場の上の方をとぶカナリアイエローの選手を見つけて、ディアナは目で追った。背格好からいってセドリックだろう。スニッチをみつけたらしい。吹きすさぶ風の中、箒を傾けて猛スピードで急降下した。とおもったら上に上がっていく。正直いって観客席からはスニッチを見つけることはできないが、なにかを追っていく。
観客たちもそれに気づいて、もっとよく見ようと席から身を乗り出したときだった。
耳の奥がキィンーーと遠くなる。雨だけのせいじゃない、一気に周りの空気が冷えて思わず息を吐く。白い吐息があがった。
ピッチを見るとたくさんの吸魂鬼たちが押し寄せていた。その中心へと、赤いユニフォームが真っ逆さまに落ちていった。





「試合中止を…求めたんだけど…」

一通り騒ぎ終わったらしいハッフルパフの集団を抜けると、ロッカールームでセドリックはうな垂れていた。
誰よりも公平で愚直な彼は納得がいかないらしい。

「運も実力のうちよ…あなたが悪いわけじゃない」
「それでも、吸魂鬼の乱入(ハプニング)があったんだから、やり直してもいいはずだ」
「…頑固ねえ」

ディアナがしたような慰めはとっくにハッフルパフのチームメイトたちがしたのだろう、それでも納得がいってないのだから本人の理解の問題だ。
ディアナはため息をついてセドリックの隣に腰を下ろした。

「じゃあホグズミードの件はいいの?」

応援に来てほしい、と誘われた時に「もしスニッチを捕まえることができたらホグズミードでデートしてほしい」と誘われていた。


「わたし、そのためにメアリとの約束取りやめたのよ。キャンセルなんて言わないわよね」

落ち込んでいる相手には寄り添う他にも、気をそらすことも必要だ。
セドリックがようやく顔を上げてこっちをみた。軽く微笑んでセドリックの肩を叩く。


「ホグズミード行きまでにハッフルパフはもう一戦あるんでしょ、気張りなさいなキャプテン」
「…うん」


セドリックの口角が上がったのをみて、ディアナは席を立つ。もう慰めはいらないだろう。







「Ms.マルフォイ」

ハッフルパフのロッカーを出てしばらく、ホグワーツ城内へ戻ろうと歩みを進めていると親しい声に呼び止められた。
振り向くと廊下の暗がりからセブルスが手のひらを上にして、くいっと人差し指を動かして「こっちへくるように」とジェスチャーをしている。

「教授、なにか…?」

近くへ行って見上げると、その難しい表情にディアナは身を硬くした。デスイーターの件だろうかと思ったのだ。

「……ルシウスから言われている。あまり相応しくない男子生徒と接触させないように、と」


ディアナはぽかんと口を開けた。最近学校のフクロウ便にまで届けさせる見合い写真から、父が焦っているのは感じていたがセブルスにまで監視を頼んでいるとは思わなかった。
セブルスに至ってはポッターが箒から落ちたことで対応に忙しかっただろうに、こんなことにまで目を向けていたのかと思わず笑ってしまう。それが鼻で笑ったみたいになってしまったのは致し方ないことだと思う。
ディアナ はその黒い瞳を探るように見つめるが、閉心術のせいなのか、瞳の色のせいなのか、それをうかがい知ることはできない。


「教授も、そう思います?」
「わたしは…」

何かを言いかけて、セブルスはそれを否定するように目を瞑った。

「わたしは君のお父上の言うことも一理あると思う。純血の一族として、良い縁を 早いうちから繋いでおくほうがいい」
「父は 家から遠ざけたいだけなのだわ!わたしだってマルフォイ家の人間なのに…」

思いの外大きな声が出てしまってディアナは気まずくて口を閉ざした。


「それとも、教授も女だからとわたしを遠ざけるのですか?」
「それは違う」

大きな手が肩に置かれる。薬草がふわりと香った。

「ディアナ、お前も理解しているだろう。ルシウスもわたしも、心配して言っているんだ」


これ以上どう優しく伝えればいいか分からない、そういう声色だった。
ディアナだってわかっている。大切だから心配だから遠ざけるのだということを。それを納得できるかは全く別の話である。

「答えはNoですわ、お父様も教授もわたしを舐めすぎじゃないですの?」

笑みを浮かべれば、セブルスははぁとため息をついた。ディアナのプライドに触れて、突っぱねられることを予期していたのだ。学期始めのディアナの純血に対する発言を聞いて薄々感づいていたのだろう。
監督生という立場からの発言でもあったが、マルフォイ家という身分から公言できなかった本心を言わせてもらったまでだ。
ハリポタではグリフィンドール贔屓に書かれていたせいかスリザリンに焦点があたってはいなかったが、実際のスリザリンはそこまで狡猾で、卑怯で、危うげな寮ではない とディアナは感じていた。純血でない家柄の生徒はもちろんいるし、マグルに対する理解もある生徒がほとんどだった。
ただ 原作のように行きすぎた純血主義をかかげる生徒も一定数いるのは事実だ。そういう生徒はそういうグループに入り、血を尊ぶ仲間と過ごしているようだった。
ディアナもマルフォイ家として誘われていたが「面倒だから」と断っていた。今期の監督生として発言かあってからそのグループからは目の敵のような態度を取られているが知ったことではない。所詮他人である。
仲間以外にはドライなところがスリザリンだなという自覚はある。


「友人のつもりでもダメだなんてわたしには理解できませんわ。それにディゴリーは純血では?」
「…母親がマグル生まれだ」
「あら、お父様もよくご存知なこと! 馬鹿らしいと思いません?そんなこといったら帝王もセブルスも、父にとっては相応しくないじゃないですか」


ヴォルデモートもセブルスも、片親は魔法使いではない普通の人である。自分の出自まで知っているとは思わなかったのだろう、鋭い視線がディアナを刺した。

「お得意の予知夢というやつか…」
「ちょっと違うのですけど、今年のホグワーツが終わる頃にお話ししますわ。…やだ、そんなに睨まないでください」


セブルスはより疲れたような顔をして、頭に手をあてた。


「ため息は幸せが逃げてしまうそうですわよ」
「誰のせいだ」


もう用はない、とばかりにセブルスが踵を返して去っていく。ぶつぶつと悪態をついている背中にディアナは苦笑した。
なんだかんだと言って 気にかけてくれているのだ。それならば、と思わないでもないが ローブの内側に持っている銀の栞にそっと触れ、その言葉は飲み込んでしまった。










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