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ハーマイオニーの作ったポリジュース薬は完璧だった。クリスマス休暇に入り、生徒もすくなくなったホグワーツでハリーとロンは易々とスリザリン寮に潜入した。
これから憎いドラコ・マルフォイから情報を聞き出さなければならないのだ。
ドラコの長々としたマグル叩きの隙を狙い、質問しようと2人はそわそわしていた。
彼の父親は悪名高いルシウス・マルフォイだ。息子のドラコに部屋の開け方を教えたに違いない。
しかしその期待は裏切られることになる。


「いったい誰が継承者なのかぼくが知ってたらなあ、手伝ってやれるのに」


ロンの顎が 驚きにカクンと開いた。グラッブらしい表情だったので誰も気付かない。
ハリーはすばやく質問した。


「誰が陰で糸を引いているのか、君は知っているんだろう…その、君のお姉さんとか」
「姉さまが? お前、噂を鵜呑みにするのか?」


姉にそんな危ない真似させられるか、とドラコが憤慨する。美しい姉と鼻持ちならない弟だが仲はいいらしい。
ディアナの話題にロンが顔を赤くしているが、誰も気にしていない。これもグラッブのいつものことらしい。


「でもレイブンクローの7年生を下僕にしてるって…」


その生徒は両親が医者をしており、その生徒自身も卒業後は病院に勤めることになっているらしい。医者を司る星座が蛇遣い座である。蛇使いを御しているのだから、ディアナ・マルフォイが 秘密の部屋の継承者ではないかという噂も流れていた。


「あり得ないね、奴は姉さまの婚約者候補だったんだけど…どうやら違うようだ。姉さまの取り巻きに入りたかっただけみたい」


ドラコが複雑そうな顔をした。


「お可哀想に、年末に変な奴に絡まれたせいで まだ医務室から帰ってこないんだ」


ディアナ・マルフォイが休暇始まる前から姿を消した。これが秘密の部屋にこもっているからだという噂もあったがこれも違うらしい。ハリーはさらに聞き出すために質問を重ねた。











「あら、ウィーズリーの…」

医務室のベッドの上、カーテンの隙間からディアナが顔を出した。ジニーは驚いて医務室の丸椅子につまづいて転んでしまった。


「今、マダムは不在なの。ちょっとした怪我ならわたしが対応するわよ」

ベッドから降りて魔法で救急箱を呼び寄せながら、ジニーに手を伸ばす。小さな手は細く痩せて体温が感じられなかった。


「…これは重体ね?」
「Ms.マルフォイはなんで医務室に…」

消え入りそうなジニーの声に、腰の痣を直しに来たら寝不足と軽い栄養失調を見抜かれてね と素直に話す。
大蛇の夢のせいで寝不足なのと食欲がわかないのでかぼちゃジュースとトマトで過ごしていたのがバレてしまったのだ。マダムが「良い」と言うまでは医務室から出られそうもない。


「ねえ、頼れる人はみつかった?」


力無い冷えた手を両手で包むと、ジニーの瞳からぽろりと涙がこぼれた。


「どうしても止められないの、彼…とても優しくて、ちゃんとひとつひとつに返事をくれるのよ。それにとてもチャーミングで…」

目を細めて大切な宝物を説明するように話すジニーを見て、ディアナはこれは、と思い至る。

「あなたはそれを恋だと思ってるんじゃない?」


震える手をほぐす様に開いていく。


「貴方は魔力と手足を与えるわ、彼はそのかわりに甘い言葉をかけてくれる。それってただの依存だわ。
恋はもっときらきらしてて苦しくて、あなたを強くしてくれるものよ」


ただの依存で手離したくないものかとおもっていたら、赤毛の小さな少女は恋と勘違いしていたらしい。人の恋路をとやかく言うつもりはないが、自分の父親のせいで少女が傷つくのはみていられない。女の子はしあわせになるべきである。
今日のお薬はこれね、と ジニーの手のひらに何時ぞやのキャンディをひとつ握らせた。









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