05



季節はすっかり冬、ホグワーツの外は冷気をはらんだ風が身を切るように吹き付けてくる。もう直に視界がホワイトアウトするほどの雪も降ることだろう。その頃にはクリスマス休暇に入る。
こんなにも足を急かしているのは寒いからもあるのだが、クィレルの接触を用心してのことだ。いつもはメアリが隣にいるのだが、今日は運悪く別行動だった。
ディアナは風が吹きすさぶ廊下をいそいでいた。
この季節の石畳はとんでもなく冷えるのだ。早く温かい談話室に戻りたかった。


「おい、待てよ」


呼び止める声に足を止めると、瞬時に壁際に追い詰められた。冬仕様のローブを着ているとはいえ背には冷えきった壁、つめたい。真上からこちらを見下ろしてくる顔は見知ったものだ。ディアナは懲りないなとため息をつく。それが相手を逆上させるのはわかっていた。
逃げ道を塞ぐようにしている彼は、手が冷たくないのだろうか…。


「手紙受け取ったか?」


スリザリンの上級生だ。以前にもしつこく言いよってきたので、撃退したつもりだったが諦めていなかったらしい。


クリスマスパーティーの誘いの招待状のことだった。断っているのに厚顔だなあと相手の顔を見る。
北欧の造りをした顔は見目は悪くない。プライドが高く空回りする性格と、ガッチガチの純血思考でなければ いい男の子なのになと残念に思う。
精神年齢がだいぶ上のディアナにとって、男の子 としか見れないのだから仕方ない。それに、申し訳ないが、血筋的にも見劣りした。



「燃やしたわ。あれっぽちじゃ暖もとれなかった」
「なに…?」
「貴方じゃ力不足よ、理解できない?」


スリザリンの才女は高飛車に事実を叩きつける。「自分より秀でた人」と交際条件を公言しているディアナである。自寮には家柄や損得でパイプを持とうと寄ってくる輩が多い。そういうのを弾くための条件だった。
成績は学年1位で容姿も頭の回転も優れ、家柄もよい。父のルシウスも、見合い相手を探すのに必死だった。
袖にもしないディアナに、怒りでだんだんと顔を赤くしていく男子生徒を冷めた目で見ながら、ディアナはため息をついた。



「廊下は寒いわ、そこの空き教室に入って話しをしましょう」
「待ってよディアナ」


穏やかな声がして、2人の間に入り込むようにディアナは背に匿われていた。


「ディゴリー?」
「探したよディアナ、魔法史の資料貸してくれるっていったじゃないか。Mr.フェブリー、じゃあまた」


スマートにディアナの手を引いて、男子生徒にもにこやかに手をあげる。
キレている彼にはそれは通用しなかったようで、セドリックの胸ぐらに掴みかかった。


「女の子に馬鹿にされて、年少者が言う通りにならないからって、癇癪をぶつけるのは違うのでない、Mr.?」

青筋を立てたディアナが静かに言い放つ。
その凄みに男子生徒は後ずさった。

「たしかご実家は大きな会社を経営されてたわね?父が株の大部分を持っていたように思うのだけれど…」

父はわたしにとても甘いの、わかるわよね?とスリザリン生らしい笑みを浮かべれば男子生徒は顔を青くして足早に去っていった。







「それで?魔法史の資料がみたいのかしら」
「…だってあそこで止めないと 君、空き教室に連れこんで何かするつもりだったろう?」


ローブの下に杖腕を隠していたし、とネタバラシをされてディアナは肩をすくめた。
浮遊呪文で脅して恋愛感情だけを忘却させようかと思っていたが、結果的に諦めさせることができて、まぁよかったのだろう。



「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして、女の子がそんな物騒なことをしちゃいけない」
「自己防衛よ」
「過剰防衛だよ」


セドリック・ディゴリーとは学年成績を競う間柄だ。仲は悪くはない。


「まったく手のかかる子だ」
「ついでに大広間までエスコートしていただけないかしら、ハッフルパフの騎士さま?」
「はいはい、よろこんで」


仕方ないな とセドリックは腕を差し出した。3年生にしては落ち着いて大人びている彼がディアナとしても話していて楽なのだが、腕に絡んできたディアナのふわりと香るコロンに彼が頬を赤らめていたことを、ディアナはしらない。









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