05




閉心術のレッスンは着々とすすんでいた。セブルスに言わせるとディアナは閉心術の素質を持っていて、教えなくても無自覚に心を閉じていたのだという。それをコントロールできるように教わっていた。
前世のハリポタの知識がばれないように気を張っていたが、それが逆によかったのかもしれない。それによって知恵熱を出すことはたびたびあったのだが。

その日も午後からのレッスンのために…というよりレッスン後のティータイムのためにハウスエルフとお茶菓子を選んでいると、おばのベラトリックスが現れて「シシー、ちびちゃんをちょいと借りていくよ!」とディアナの腕を掴んで暖炉に詰め寄ると、煙突飛行をした。
とっさのことにディアナは何がなんだかわからずに、飛行先で暖炉の灰を吸ってしまいひどく咳き込む。はじめての煙突飛行がこれとは思わなかった。

子供慣れしてないベラトリックスはディアナの背中を強く叩いて「ほら、しゃんとしな」と言ったきり、手を離してズンズン先に進んでいってしまった。
同じ子供慣れしてないセブルスとは全然ちがうんだなーと哀しくなりながらも、ディアナは必死にベラの後を追う。





「ほう、これがルシウスの娘か」

「はい!わたしの姪っ子ですわ、我が君!」


通されたのは薄暗くて少し開けた部屋だった。奥に玉座のようなものに腰掛けた男性が座っており、ベラはその人物に向かって普段聞いたことのない甘い声で話しかけた。
ディアナは部屋に充満する魔力の禍々しさに息を詰めた。玉座の人物は本当に人なのだろうか?
元は端整な顔をした人物だったのだろうが、闇の力の反動でだろうか 人ならざるものの形相にディアナには見えたのだ。
我慢しきれずに喉の奥がひくり、と鳴る。

挨拶をおし、とベラに突かれて 慌ててスカートの端を摘んで頭を下げた。


「ディアナ・マルフォイともうします、わがきみ」


舌ったらずの口調でなんとか言い切ると、ベラがほっと息をついた。何も言わずに連れてきておいて、なにそれひどい。
ヴォルデモートは面白いものをみつけたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。


「我が君…とは誰に聞いた?」
「おとうたまが そうよんでました…いつもヘビが近くにいるって」

ディアナが玉座の後ろを指差すと、薄い声をあげながら大蛇が鎌首をもたげた。
父とセブルスの話しを盗み聞きしているのは秘密だけど。それを聞いてヴォルデモートはくつくつと笑った。


「セブルスがお前に家庭教師についているらしいな? ルシウスはコレに何をさせるつもりだ?」


大層上質の魔力をもっている…と舌なめずりでもしそうな表情でディアナを見下ろす。


「ルシウスと妹があなた様に? とんでもございませんわ、我らの役に立つために!……そうよね、ちびちゃん?」

「…みしゅたー は、わたしが物をこわしたりしないよぉに おしえてくれます」


なんとか言葉にすれば、ベラなりに姪っ子が誇らしいのか満足そうに頭を撫でてきた。
…乱暴だから苦手なんだよなーというのは心の中に秘めておく。



「何ができる?」


暗に魔法をみせてみろ、と言われて 助けを求めてベラを見上げる。
助けてくれそうなのは彼女しかいなかったが、彼女もヴォルデモートの前なので上機嫌に さぁ、と促すのをみて逃げ道はなくなった。
さぞ哀しい顔をしていたのだろう、ヴォルデモートが可笑しそうにくつくつと笑う。

「力を抜け」

そう言われても幼子の緊張した体は、解れない。セブルスに習っているのは閉心術だし、どうすればいいか困り果てていると、入ってきた扉が外から叩かれ、中の返事を待たずにしてルシウスとセブルスが入ってきた。


「おとうたまぁ!」


父に飛びつけば、ひしっと強く抱き返される。よほど急いできたのだろう、父のフレグランスが強く香って、それがまたディアナを安心させた。
2人の周りに花がぽんぽんと咲く。


「失礼をいたしました、我が君。ベラトリックスがなにも言わずにディアナを連れ去ったもので、母親が半狂乱になって助けをもとめてきまして…」
「わたしのせいかい スネイプ! 断りは入れたろうさ!」
「ベラ、あれじゃ人攫いだ…」

ルシウスが飽きれたように義姉を見上げる。
腕にはしっかりと娘を抱えていた。










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