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「行ってまいります」


寂しそうに母の頬にキスを贈る弟。ディアナもハグをしてホグワーツ特急へと乗り込んだ。出発まではまだ時間があり、列車の中も暖まりきってはいない。今着ている上着も温かいが冷え切った空気には勝てない。発注したウールコートが早く出来上がらないかしら と待ち遠しく思い、ディアナは擦り寄せた手の中に息を吹き込んだ。

先頭のコンパートメントにディアナのスーツケースを送り届けると、ドラコは監督生用の席へ向かうために自分の荷物に手をかけた。ディアナはその手を引き止めて、コートのポケットから取り出したものを握らせる。
触った感じは硬い小さな球が入れられているようだ。ドラコは手の中におさまる巾着をしげしげと見つめた。
この休暇間に見覚えのある布地だ。シンプルで上品だが、姉らしく大好きな薔薇の小花が舞っている。これは姉のコートの裏地に使ったものではなかっただろうか。母とふたりできゃっきゃとはしゃいで決めていたのを覚えている。


「同じ布を使って御守りを作ってもらったんですわ。本当に困った時に開けてちょうだいね」
「じゃあ 今だね。ホグワーツがケチなせいで列車が寒い。凍え死にそうだ」
「まぁ それは困ったわ」

今はこれで我慢してね、とタフィーの包みを手渡された。
姉のいつもの調子に ドラコは「また子ども扱いされた」と思いつつも「姉が心配してくれている」という嬉しさに、反論することなく包み紙をはがして口の中に放り込んだ。バターの風味が甘い。今期の監督生任務も頑張れる気がした。






んんっ という咳払いに背後から引き止められる。
特急から降りて、ホグワーツ城に辿り着き、生徒たちはカートや鳥かごを引いて 慌ただしく廊下を進んでいく。その中だから あまり目立たずに済んだのだろう、年末にウィーズリー家の者たちと早めの休暇に入ったことで注目されている ハリー・ポッターがそこにいた。


「あら ご機嫌よう、荷物持ちかしら?」
「ちがうよ!
あ、ごめんなさい。貴女は そう、あー、預言者なんだから知ってるはずだ。ぼくの悩みも、聞きたいことも」


ヴォルデモートと意識を繋いだことによって 冬休みの間思い悩んでいたことは知識として知っているが、こっちの知ったことではない。


「生憎ね、レジリメンスは得意じゃないの」
「? どういう…」
「言葉にしなくては分からなくってよ。貴方を育ててくれた人、面倒を見てくれた人はそんなことも教えてくれなかったのかしら?」


ああ、でも親戚宅はハリーをネグレクトしていたわけだし、シリウスも大概「察してちゃん」だった気がする。ダンブルドアについては多くを語ることができないために尚更だった。
ディアナはそれに気付いて思わず「あら 可哀想に」と漏らしてしまい、ハリーが馬鹿にされたと勘違いして顔を赤くした。



「貴女だって 預言で多くを知っているはずなのに、語らないじゃないか!」
「言うわね、女は秘密を抱えていたほうが魅力的でしょう?」


痛いところを突かれたが、ディアナが語る必要はないのだから仕方ない。はぐらかすと もともと スリザリンに話しかけるという行為自体でイライラしていたハリーは、さらに不機嫌になってしまったようだった。


「からかいすぎたわね、でも疑問は素直に言葉にしたほうがいいわ。一人で突っ走ってしまうよりは。
貴方が聞きたかったのは「帝王と自分の意識がリンクするのは 予知能力なのか」じゃなくて?」
「そう そうです、でも何でー」


明るい緑色の目を見開いて、ハリーは口をあんぐりと開けた。


「貴方の監督権はダンブルドアにあるの、わたしはとやかく言う立場じゃないのだけど。貴方のそれは予知ではないわ、それだけは教えてあげる。
コントロールはスネイプ先生が直々に教えてくださるんですわよね?」



月曜日の夕方6時、そう囁けば 閉心術のレッスンのことを思い出して、ハリーは心底嫌そうな顔をした。次いで「なぜそのことを知っているのか」と睨みつけてくる。この子は本当に表情で分かりやすい。ドラコも分かりやすいが 同等じゃなかろうか。
ダンブルドアには「ポーカーフェイスのレッスンもしなくて良いのか」と言わなければならないだろう。


「不安なら わたしもついて行ってあげるわ。まあ わたしのことも信用ならないだろうけど、一人きりで挑むよりはいいでしょう」



そうこうしているうちに スリザリン寮の入り口まで来ていた。周りはスリザリン生ばかりで、怪しんでこちらを見ている。話に夢中になっていたハリーはそこではたと立ち止まる。

「ポーター(ポッター)さん、見送りはここまででいいわ。では 月曜の夕方に」


ディアナが意地悪くにっこりと微笑むので、ハリーは今度こそ頭にきて 乱暴に踵を返した。










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