07



去年の三大魔法学校対抗戦での事件、ハリーの「ヴォルデモートが復活した」という発言、そして魔法省の情報操作によって 新学期早々から生徒たちのバランスは良いものではなかった。
闇に近いものが多いスリザリンではそれが顕著で、派閥のようなものがすでに出来てしまっていた。ドラコも純血思考の新入生を優遇するような態度を取り始めている…スリザリンでは『それ』が安全なのだ。力のある方へ、信じてはいなくても ポーズさえ取ればいい。ドラコもそのつもりなのか、完璧な信仰は求めていないようだ。
今年はドローレス・アンブリッジが赴任してきたこともあり、社会でいう『正義に則った発言』は控えた方がよさそうだったのでーー。


スリザリンの嫌味を超えるアンブリッジのいやらしさ、理不尽さが顕著になってきたのは外気も寒くなって山々の木の葉も紅葉し始めた頃。高等尋問官という制度が出来てからだった。
要は学校教育に魔法省が本格的に介入し始めることになる。その査定を行うのがアンブリッジだった。理不尽さや納得いかないその処遇に生徒たちは反発したが、教師陣と多くのスリザリン生は沈黙で返した。こういうのは熱くなって反発すれば反発するほど、抑えつけが強くなる。やり過ごすのが1番なのだが、若い力は耐えることが特に苦手なようだ。


「花園の話題も愚痴が多くなってきて…。この間はマクゴナガル先生のところに審査が入ったそうですわね。すごく面白そう」
「…お前は暇なのか。NEST対策でもしていなさい」
「勉強もやってますわよ。ねぇ、来月外部に『外出』するんですけど、もしかしてアンブリッジも『付き添い』されるのかしら?」


ディアナは勝手知ったる様子で、魔法でお茶の準備をしながら 首を傾げた。
外部機関へ赴いて研究を行う旨は新学期前から話を通していたが、オマケがついてくるのかを確認したくて…というのは言い訳に、ただ単にお茶がしたくて 週末にセブルスの部屋を訪ねた。
ドローレス・アンブリッジが赴任してきてから DADAの授業内容はだいぶ乱れていたし、魔法省の介入がされてからは教師側の混乱も生徒に伝わるほどだった。アンブリッジは乱すだけ乱して粗を探し、ホグワーツという教育機関の権限を魔法省に移してしまいたいのだろう。ディアナの予知夢についても目をつけられていて アンブリッジからは散々アプローチを受けており、その捌け口が欲しかったのもある。勉強や研究、就職活動で忙しくしてい|ディアナを手揉みしながら追いかけ回すアンブリッジの姿は有名だった。
セブルスも難しい顔をしながらも、ちゃんと厨房からクッキーを取り寄せてくれるあたり ディアナを労ってくれるつもりなのだろう。この夏休みの体の関係なんてなかったかのように、今まで通りのティータイムだ。その雰囲気にディアナは ほっとしたような、残念なような…と傾けたカップの陰でため息をつく。拒絶はされていないようなので それだけが救いだった。


「この間ちょっと揶揄って差し上げたら嵌っちゃって…。でも、あれは彼女が散々馬鹿にした『占い学』なんですけどねえ」


あまりにも予知夢をよこせよこせと煩いので、アンブリッジのトラウマと最近の悩みを言い当てて アドバイスをしたのだ。プライベートのことを言い当てられて彼女はすっかり感心してしまい、以来事あるごとにデュフデュフと笑って手揉みしながらアドバイスを求めにくる。
アンブリッジが監査で占い学を散々コケにしたのは、記憶に新しい。ディアナもトレローニーは苦手だが その学問については過去の学者が積み重ねてきた研究の証であると敬意を払っている。教育を蔑ろにするアンブリッジにひと泡ふかせるつもりでどっぷりハマらせてから切り捨てる算段だったが…。ディアナの詐欺めいた予知もどきに簡単に陥落してしまったために少々物足りない。


「もう少し疑ってくれるかと思ったんですけれど、残念ですわ」
「なにを考えている?」
「先生方もそれぞれの分野を馬鹿にされて、こころ穏やかではないでしょう? うまいこと出し抜けないかしらと思って」
「その案はとても魅力的だが、お前の企みはどれも穏やかではないからな」
「あら」


そこまで企んだつもりは何もないのだが、確かにここ数年は 秘密の部屋に呼ばれて気を失ったり、狼人間と吸魂鬼相手に杖を振るったり、闇の帝王に交渉を持ちかけたりと 綱渡りをしていたかもしれない。心配してくれているんだろうか…と 紅茶に口をつけながらちらりとセブルスを見上げる。その表情は いつもの気難しそうなそれで、ダンブルドアの計画の支障にならないかどうかという心配をしているだけなのかもしれなかった。


(リリーに生涯をささげた彼だもの…)


夏休みのアレは、彼の心が弱まったときにつけ込んでしまったからなんだ とディアナは苦い感情を紅茶と一緒に飲み込む。ちくりと胸が痛んだ気もするが、気紛れでも、抱いてもらえてラッキーではないか と思い直した。彼の弱みを利用したのは自分の方だ。
一度触れて仕舞えば より欲しくなる。物語の部外者である自分には過ぎたものだというのに。









「あら、先生。ご機嫌ナナメなのかしら」

アンブリッジに呼び出されて、ディアナはいつもの愛想もそこそこに勧められた ふかふかすぎて座り心地の悪い椅子の上で足を組んだ。相変わらずすごいセンスだ。目に痛いくらいのロリータ。足でも組まないと自分のペースを保てそうになかったのだ。ディアナの予知ーーもといなんちゃって占星術に心酔しているアンブリッジは年下の少女の態度の悪さも あまり気にはならないようで、ぐふぐふと顎の肉を揺らしながらトロリとした目を向けてくる。


「教師に『先生』とよばれるのは変な感じですわ。立場的にあまりよろしくないのでは?」
「すくなくとも 森番やシビル・トレローニーよりは、貴女を先生に推したいわね」
「半巨人や七光りにしがみ付いてるだけの人と一緒にしないでいただきたいのですけれど」
「ああん、それは失礼したわ。そんなつもりはないのよ」

似合いもしないぶりっ子の声に ねっとりした視線。逃げるとおわれるので ディアナはそこから気配をけすようにして心を空っぽにした。無である。


「あなたの言う通り、ハグリッドを追わせたらフランスへとたどり着きました。その時に仰った『ダンブルドアの企み』で山岳地帯に行っていたのは確かなようですね。しかし、フランスのあたりまでは役人が尾行していたのですが、撒かれてしまって…」
「それは残念、せっかく夢をお話ししたのに」
「ええ、本当に使えない部下たちで申し訳もないわ…。でもあの辺りになにかあるんですわね? 予知夢では続きを見ていないのかしら」


催促というわけだ。
ディアナはうっすらと笑ってアンブリッジをみた。

「申し上げたはずですわ、予知夢を狙って見ることはできないのだと」
「その標準を合わせる研究をしているのだと、ある筋から伺ったのですけどね」


ディアナは所属している研究施設の職員を あとで洗うことを決意する。情報漏洩は厳罰である。アンブリッジが手元のカップを勧めてきたが 丁重に断っておく。ハリーに真実薬を飲ませた彼女である。なにを仕込まれているかも分からない。

「まだ研究途中ですもの。狙って未来を読めたならいいんですけど、それができるのはきっと彼の高名な大魔術師マーリンか ケンタウロスの方々だけですわよ。まだ学生の身分で 研究に本腰がいれられないことをご容赦くださいな」
「研究を勧められたら、可能なんですのね?」


嫌な予感がするので ふぅ、とディアナは息を吐く。


「……そんなことより、馬の姿をしたものにご注意ください。その地位からあなたを蹴り落とす者ですわ」
「えっ? あああ 馬ですわね! 馬…馬…馬蹄の紋章をもつ人物ならグローリーかしら。いえ、馬面ならウェットン? いや、でも彼がまさか…?」


途端にディアナから興味を失って 勝手に同僚たち相手に疑心暗鬼に陥っていったアンブリッジ。ディアナは「しょうもない」と呟いて静かに部屋を出た。
占星術のホロスコープを見れば分かるキーワードである。原作でも彼女は禁じられた森に入ってケンタウロスたちに追いかけ回された後に教師職から外されるので、ディアナは何ら嘘をついていない。

大魔術師マーリンは千里眼を持ち、過去未来を見通し、相手の心さえも読んだのだという。ケンタウロスの一族は 星をよむことに長けており、世界の流れを粗方把握しているにも関わらず その全てを受け入れる寡黙の生き物だ。
予知の研究で「意識して先見できるのだろうか」という話が持ち上がったのは、結構早い段階である。悪い未来を回避するためにも 予知は自分の手で把握できていた方がいいに決まっている。ディアナは今の状態で十分なのだが、唱えているのは所長と一部の研究者たちである。

(さぁ、誰なのかしら)


ディアナは一人一人の顔を思い出しながら、ふふ と笑みを浮かべた。だって彼女はスリザリンなのだから。








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