06





ホグワーツへと出発する日。ディアナは前日の夜から騎士団に預けられ ウィーズリー家の子やハリーたちとキングズクロス駅へと向かった。ジニーやハーマイオニーは和かに迎えてくれたが、ハリーからの視線はすごかった。ハリーにとってディアナは敵でしかないらしい。2人は「気を悪くしないでね」と気にしているようだったが、ディアナにはハリーのそれは子犬の威嚇にしか見えていない。ディアナは女子2人に「気を使わせて悪いわね」と笑いかけた。


「それよりも駄犬が気になりますわね…」
「缶詰めだったもんね」

ジニーがなんとも言えない表情で先を歩いているシリウスを見ていた。ハリーの周りを飛んだり跳ねたり、駅までの道すがらすれ違った猫に威嚇したり、大忙しである。これでは 散歩が嬉しくてたまらない 犬だ。まとわりつかれているハリーですら戸惑っている。それでも 勘のいいデスイーターは気付いてしまうんじゃないだろうか…とディアナは横目で辺りを探った。ロンドンの街中は人通りが多くて 人混みに紛れてしまえば分からない。目の前の駄犬は周りのそんな心配も知らないでブンブンと尾を振っていた。友人の手綱を取らなければならないルーピンも大変だな。

駅のホームに着くと、ディアナはウィーズリー夫妻に挨拶をしてその場を離れた。ドラコの見送りに来ているだろう両親の姿をさがす。


「姉さま!」

ドラコが大きく手を振っているのが見えた。ディアナはカートを押しながらそちらへと駆けていく。


「ドラコ、また背が伸びたのね!新しいローブ とっても似合っていてよ」
「姉さまも変わらずお美しいです。あっ でも少し顔色が…」
「慣れない場所での生活でしたからね。お父さま、お母さまも 心配かけてごめんなさい」

ほっとした様子の母にキスを送る。両腕を広げて迎えてくれた父にも背伸びをしてキスをした。その耳元に そっと囁きかける。

「ダンブルドアのところにシリウス・ブラックが…。アニメーガスですわ」

離れる時に父と視線が絡む。その視線がすいっとハリーたちの団体がいる辺りを見ていた。確認しているのだろう。この情報を流すことはダンブルドアにも許可を取ってある。まぁ ここまで派手に出歩いたら、シリウスのことは遅かれ早かれバレていたことだろう。ルシウスの灰色の瞳がきゅっと細められた。シリウスの姿を確認したのだ。ディアナはその間 父の顔をまじまじと見ていた。
色白であるルシウスだが、頬が少し痩けたようだ。なんだか疲れている印象を受ける。


「私よりもお父さまの方だわ。娘のお泊まりがそんなに心配だった?」
「心配せぬ親はいないだろう。無事で何よりだ」
「セブルスがよく気にかけてくれましたの…。あら、もう汽笛が」

出発をつげる警笛がホームに響く。ドラコはすでに荷物を積み込んでいるようで、ディアナの荷物に手をかけた。運んでくれるらしい。


「2人とも 仲良くなさいね。何かあったらすぐに梟を飛ばすのよ」
「はい、お母さま」
「今年のクリスマスこそ家に帰れるといいのだけど…。お父さま、予定を空けといてね」
「もちろんだとも」


ディアナもドラコも 交互に別れのキスをして、ホグワーツ特急へと乗り込んだ。

ゆっくりと汽車が動き出す。よく揺れるので廊下の手摺りにつかまって空いているコンパートメントを探すも 丸空きの席はもうどこにもないようだ。ちなみに、今年はディアナは監督生に選ばれていない。就職活動で忙しくなるので辞退したのだ。その代わり、今年はドラコが5年生の監督生になった。

「監督生のコンパートメントに呼べたらいいんだけど…」
「いいのよドラコ。おめでとう、バッジ 似合ってるわ」

並ぶと ドラコはディアナよりも背が高くなっていた。丁度セドリックと同じくらいだろうか。ディアナよりも頭半分上だ。…と考えていたところで セドリックはもう居ないのだと苦笑して、誤魔化すようにドラコの胸のバッジに触れる。


「あなたのやり方で、しっかりやりなさい」
「……姉さまのやり方とは違ってもいい?」
「だってあなたはわたしじゃないもの。監督生のマニュアルに外れなければ、それぞれの方法でいいわよ」

ディアナが監督生の時は純血の思考に縛られずに指導したが、次はドラコが監督生に選ばれたのだから 学校側はドラコの指導を望んでいるのだろう。…学校理事である親のコネ というのも無きにしも非ずだが、行き過ぎれば他学年の監督生が修正してくれるだろうから心配はしていない。


「Ms.マルフォイ、もしかして席をお探しですか?」


近くのコンパートメントが開いて、中から声をかけられる。顔を見れば一昨年のクリスマスパーティで見た顔だった。純血思考の家の子だ。中を覗くと、他にも2人。どちらも癖のある家柄だったはず。どの家も完璧な純血の家系ではないので、パーティなどでもなかなかマルフォイ家に近づくことのないグループだ。その3人が笑みを浮かべて真っ直ぐにディアナとドラコを見ている。


「よろしければ僕たちのコンパートメントへ…」


もうすでに第二次魔法戦争は始まっているのだ。ドラコはそれに気付いて表情を引き締める。ディアナは迎え撃つようにその顔に綺麗な笑みを浮かべる。


「お邪魔ではなくって?」
「そんな!お美しい貴女においでいただけたらこのコンパートメントも華やぎます!」
「天文学や奇跡に通じる研究もされているとか…ぜひお話を伺いたいです」
「ええ、そりゃあもう。これからの魔法界についてとか、ね」

心配したドラコが 3人の影になるところでディアナを引き止めたが、その手をやんわりと制する。ディアナは一歩踏み出してそのコンパートメントに足を踏み入れた。
今年も1年が始まるのだ。











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