タイトルは・・・とても適当です。君に雪をみせてあげたいの続き






テッカニンはナマエのことが好きだ。それはテッカニンがまだツチニンでもなくて、卵のなかでふわふわとやわらかいものに包まれながらまどろんでいた時から好きだった。優しい声が、まどろみの中でいつも聞こえてきた。自らの爪で殻を割って外に出たとき、ツチニンはそこで初めて声の正体をしった。その時からテッカニンはナマエが大好きだ。小さなかわいい人間の女の子。テッカニンの大事なパートナー。

「なぁ、テッカニン」

もちろんナマエのおやのことも、テッカニンは好きだ。まぁ、ナマエに比べれば負けるけれども・・・。だから静かに病院内を飛んでいた時にゴニョニョを連れた二人のおや、に手招きをされてテッカニンは素直にそちらに近寄った。久しぶりに会った気がするゴニョニョが、いつもよりももっとささやくような声でテッカニンに挨拶をした。病院内は静かなくせにそれでいてやけに声が響くので、気にしているらしい。テッカニンの頭を優しくなでてくれたあとに、おや、はすこし悲しげな顔をしてこんなことを言った。

「ナマエは・・・あれから人が変わってしまったようだろう」

テッカニンはその言葉にうなずいた。詳しいことはわからなかったのだが、ナマエの頭にはなにか大変なことが起きているのだということは病院に勤めているプクリンから聞いていた。だからナマエはテッカニンを見て悲鳴をあげて、しきりに雪が見たいというのだそうだ。ずっと前にナマエと一緒に撮った雪遊びの写真を見せてあげたいとテッカニンは思っていたが、おや、にそれをどうにか伝えても彼らはそれを持ってきてはくれなかった。

「あの子は私たちのことも、お前のこともわからなくなってしまったんだよ」

自らの手持ちも、ともに暮らしていたポケモンたちも、何もかも。テッカニンは一瞬羽の力が抜けて床に落ちそうになって、どうにか持ちこたえた。ゴニョニョが聞きたくない、とでもいうように自分の耳を握りしめているのを目の端っこにとらえながら、テッカニンはわななくように羽を震わせた。ナマエが自分をわからないなんて、そんなことってあるんだろうか。

「人間はそうでもないんだが、どうしたことかポケモンをひどく怖がってね・・・。それにあの子は随分とお前に酷いことを言ったようだ」

体表が随分くすんでしまっている。そう言われてテッカニンは少しだけ辺りを飛び回った。きっとそれはナマエのことが心配だからだろうけれど・・・・。でもそうだ、いつもはナマエがテッカニンのことを専用のブラシで撫でてくれて、優しい言葉をかけてくれていて。それで。

「テッカニン、少し落ち着きなさい」

気が付くとテッカニンはロズレイドの腕に抱きかかえられていた。辺りには濃い森の匂いが漂っていて、どうやらロズレイドがアロマセラピーを使ってくれたようだった。そのままの体勢でお礼を言うと、ロズレイドは少し微笑んで、気にしないでと言ってくれた。

「なぁ、テッカニン」

二人のおやがしゃがみ込んで、テッカニンの顔を覗き込んできた。片方のおやに抱きかかえられたゴニョニョが心配そうな顔をしていたのでテッカニンはすべての足を少しだけ動かして、怪我をしていないことだけはアピールをしておいた。

「一度、ナマエから離れてみないかい」

二度と元のあの子には戻らないかもしれないが、とりあえず彼女が落ち着くまでは。おやはそういって、ロズレイドの腕からテッカニンを抱き上げた。ロズレイドがアロマセラピーを解除したのか、さわやかな森の匂いはいつの間にか消えてしまっていた。

「ここにいると、お前の体も悪くなっていってしまう」

テッカニンはなんと返したらいいかわからなくなった。ゴニョニョが心配そうに、ちゃんとご飯を食べているのかどうかを訪ねてきてそれはもっとわからなくなった。たしかに最近、テッカニンはあんまり食事をとっていなかった。いつも一緒にご飯を食べていたナマエが隣にいないから、なんだか食欲があまり出ないのだ。

「・・・・・・一度、ゆっくり休みなさい」

差し出された見覚えのあるモンスターボールに、テッカニンは自ら入ることにした。ナマエの病室にあったはずのそれを見てやっとテッカニンにもわかった。今のナマエはテッカニンと一緒にいたくないのだ。モンスターボールの中から外を見ながら、テッカニンはおやに連れられて病院から出た。

病院の出口をくぐっても、くるまが動き出しても、ナマエは見送りにはこなかった。ここに入院する前のナマエを思って、テッカニンはモンスターボールの中でほんのちょっぴり泣いた。



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