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わぁわぁと人が騒めいている。不思議と心は凪いでいる。いや、嘘です全然凪いでない。興奮でワクワクしてるよ俺は。めっちゃ興奮してるよ。だって久しぶりの大戦ですもの。それに駆り出されたんですもの、俺。

「・・・・・まさかあんたが出てくるとは思わなかったなぁ、俺様」
「・・・・・・・」

目の前にいるのはあの猿飛佐助君です。前に比べると随分頬がこけたというか、精悍になったというか、野性味がある。めっちゃ苦労してきたんだなって顔してる。まぁ真田はね、いろいろあったよね。んでもっていろいろやらかしたのが君のご主人様だものね。俺は馬鹿だけどそれぐらいはわかるぜ。

くるくる、くるくる、佐助が大型手裏剣を回す。相当苛立ってる。何にって、俺みたいなやつを借り出した徳川にだろうか。それともほいほい命令聞いてやってきた俺?頼まれてお前の行きたい道ふさいでる俺?ばっかだな、何言ってんだよじいちゃんに言われたら断れるわけないじゃん。断る理由もないわ。

「そこ、どいてくんないかな。俺様旦那の手助けしなきゃいけない」
「・・・・・」
「旦那の、大将の血路を切り開いてやらなきゃいけない。何に変えても」

あの人の一世一代の大舞台だ。と言って佐助が手裏剣を構えた。俺も忍者刀を構えてそれを迎え撃つ準備をした。互いの武器がそれぞれのばさらを纏う。ぴん、と張り詰めた糸のようなそんな危うさが今の佐助っちにはあるわけなんだけど・・・・。

「・・・・・・」

なにやってくるかわからねぇ。それに相手は闇のばさらだから、長引くとこっちの体力が吸い取られるって寸法だ。忍びの技に体力を奪う能力。今までの命あっての物種みたいな戦い方とは違う、どっちにしたって死ぬ気で向かってくる手負いの狐だ。ちょっとこれは、危ないかもなって思いながら唇を舐めた。それが、戦いの合図みたいなもんだった。






本気の忍び対本気の忍びだ。そりゃあもうえげつない結果になった。いやもうやばい。グロ耐性がある俺でもオエってなるオエッて。あっ違うわごめんこのオエッは胃袋がシェイクされた上に手裏剣で切られた結果のオエッです。さっきから喉奥から血しか出てこないし。

「ダン、な」

うわ、まだ動く。まだ動くんかい己は〜〜っ。と思って俺も半死半生だったけど関節逆になってたり目玉が飛び出てたりする元猿飛佐助に近づいた。まぁ俺も関節逆になってるんだけど、さっき無理やり歯で治した。だから何とか・・・何とかなってないけど、何とか、刀を握って足っていうか、片足なくなっちゃったんで太ももではいずりながら肉塊の元に向かった。とどめ刺さないと何するかわからんのが忍びだ。俺もちゃんととどめ刺してくれないと何するかわからん。

「だん、なの、とご、に、いぐんだ」
「・・・・・・・」

ぜろぜろと不明瞭な音ながら佐助がしゃべる。ころ、と視神経とまだつながったままの目玉が転がってこっちみた。がは、と何か吐いた。黒い塊。内臓みたいだった。死ぬんだなこいつ、と思いながらもう握れなくなった腕を捨てて歯で刀を加えた。せめて介錯してやるよ、とおもった、その油断がいけなかったんだろうなぁ・・・・。

気づいたらマウント取られてた。俺が胡桃みたいにカチ割った頭から脳みそっぽいのがぼたぼた頭から垂れてるけど、それでもまだ佐助は動いた。すごい執念だなと思って目を覗き込んだら半分死んでた。白目なくなってた。たぶん闇のばさらで動かしてる。心臓、無理やり動かしてる。最後の想いだけでうごいてらぁ。おっかねぇの。おっかねぇなぁ、そうか、こんなになっちまうんだ。

ガンガン俺だってもうちょこーっとしか残ってなかった体力って言うの?力って言うの?が吸い取られていくのがわかる。まず手から力ぬけて、頭支えられなくなって、心臓の鼓動がすごく大きくなる。体中が心臓になった見たくなる。この感触は、ぐっちゃぐちゃになって死ぬ寸前に一度だけ味わったことがあったから、知っている。

「・・・・だん、な・・・」

ずる、ずる、と佐助なんだか佐助じゃないんだかよくわからない生き物が戦場に出ていく。その先は地獄だぞ、と思いながら胸に手をやった。そこには鶴姫からもらったクナイがはいってる。まるで今の俺みたいなクナイが入っている。

「・・・・・・、、」

誰かが隣に立った気配がした。たぶん次の風魔小太郎になるやつだ。この戦がおわったあとに、果たして忍びは必要なのか、それはわからないが。

「、・・・・・」

意識がかすんでいく。もう目はほとんど見えない。かすかに光がわかるだけだ。でも心臓が止まる前にどうにかばさらで腕を動かして、クナイを取り出した。それを渡す。確かに渡したはずだった。それをどう使うかは、次の風魔小太郎次第だ。もしくは受け取ったどっかの馬の骨次第。

息をついて、ああ、と思った。1度体験したあの感覚だ。上に吸い上げられるような。最後にもう一度官兵衛さんに会いたかったなと思いながら目を閉じて、すべてが真っ暗になった。

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