けんこうな


俺が男として生まれて、あの人は女の子として産まれて、もしかしたらそうじゃないかなぁとは思っていた。みんなは男のあいつを探すけど、俺だけは女の子なあの人を探していた。俺が男として生まれている時点でそうおもわないのかと思った時もあったけど、以前を知っているのなら、そうだな、当たり前のことなんだろう。

「旦那いねぇなぁ・・・」

多分不安定なんだと思う。いつも目から何かが流れていくようなそんな感覚がある。実際鼻水だって出るんだから、たぶん俺はいつも泣いているんだ。泣きながら夜の東京を歩いていた俺に目をつけて絡んできたやつらを半分ぐらい殺した後に、ぽっけからライターとたばこを抜き取って、それを吸いながらまたふらふらと町を歩いた。気づけば朝になって、俺はそのまま学校に向かって、授業中はそのまま寝るかそれか外を見ながら旦那を探す。そんな一日がまた始まる。

「おい、佐助」
「かすが・・・」

泣きながら最後のたばこに火をつけていたら、目の前に女の子が表れた。かすがだ。今回はハーフとして生まれてきたみたいで、金髪と薄いながらも青い目がとってもきれいな女の子になった。今思うと、前のかすがも、父親が外国の人間だったのかもしれない。そんなことを考えながらこんな夜中に危ないよぉと声をかけるとしかめっ面して、俺の手からたばこを奪った。

「人を殺すなと言ったはずだ」
「・・・半分ぐらいしか殺してない」
「半分でも、ダメだ」

地面に落としたたばこを革靴のそこで踏みにじって、かすがはため息をついた。半分でも死んだら死ぬだろう、とあきれたように言うのに、救急車は呼んであるよ、と反論するとますます深いため息。

「そこまでするならやめればいい」
「俺に言わないでよ。向かってくるあいつらに言って」
「そもそも夜中に出歩くな」
「かすがに言われたくない・・・・」
「私はお前を探しに来たんだっ!」

このバカが!と怒鳴られて肩をすくめる。前も容赦はなかったんだけど今世はさらに容赦がなくなった気がする。いや、前は、時折ぐちゃぐちゃになってる俺を心配してくれていたんだとは思う。今は本当に容赦がない。

「いいから帰るぞ。こんなことをしていればいずれ体は持たなくなる」
「でも、旦那を・・・」
「見つける前にお前が死んだらどうするんだ」

訥々と諭されて、は、と目が覚めたようになった。そうだ、あの人を見つける前に死んだら、せっかく探すって言ったのに約束を破ったことになる。俺のわがままで一緒に死んでもらったのに・・・・。

「・・・そうだね」
「わかったならいいんだ。さ、帰るぞ」
「うん」

素直にうなずくと、掌が差し出された。反射的に握るとほらいくぞ、とかすがが先導するように歩き出す。休まなきゃ、と思うと途端によろめきだした足をどうにか動かして、ネオンサインの下でますますきらめくかすがの、きれいな金髪を目印にして歩いた。

「・・・かすがは優しい」
「何だいきなり」
「昔も今も、かわらないね」
「私に言わせればお前だって変わっていないぞ。性別こそ違うが、いつもめそめそ泣いてばかりで」
「そうかぁ・・・」

変わっていないかぁ、とつぶやくともう一度肯定の返事が返ってきた。俺が変わっていないなら、前の俺も俺だったんだろうか。性が違うから、あんなに暴れて泣いて、いつもあの人に迷惑をかけていたけど、あれも俺だったのか。そう考えたら、あの人がいない日常でも、ほんのちょっとだけ楽になった気がした。

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