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子供の名前はソラという。フワンテはそれを何故か覚えていた。何故か、というか多分フワンテがすきなものと同じ名前だったから覚えていたのだと思う。ソラは空が好きだろうか。少なくとも嫌いではないだろう。フワンテもフワンテと同じ名前の何かがあったら、きっとそれを好きになる。

今日のフワンテの体はよく風に乗ってくれる。子供の腕に手を絡めて、フワンテはどんどん上へあがって行った。目指すはフワンテが好きな場所。ここよりとっても太陽に近くて、少しさびしいけれどとてもきれいな場所。地面からはとても遠くて、フワンテや鳥、あとはドラゴンみたいに翼が生えている生き物しか行けない場所。子供という重いものを腕に抱えているのに、そこそこな風がふいているのに、何故かいつもより楽に空へあがっていけることにフワンテはとても喜んでいた。ソラも喜んでくれるだろうか、すこしだけ雲がでているけれど、そんなのは気にならないぐらいおおぞらから見る景色はすてきなのだ。

「ぷわわー」

そしてとうとう、右をみて、左を見て、誰もいないすこしだけ寂しい場所にとうとうフワンテはたどり着いた。時々頑強なドラゴンだけが通って行くおおぞらの上。フワンテが一等好きな場所だ。今日の朝ぶりに見るその雄大な景色に、フワンテは見惚れてため息を吐いた。そうしてやっぱり地上はフワンテにとって酷く狭かったことをつくづく実感した。

「ぷわー」

そうだ、ソラはどうだろう。フワンテは自分が腕に捉えている子供を見下ろした。ソラはこの景色に見とれているのか、だらりと体の力を抜いていた。ひゅうひゅうと吹く風に合わせて、小さな体がゆらゆらと揺れる。フワンテがどんな気分、と話しかけてもソラは黙って下を向いていた。フワンテは暫くソラの返事を待ったけど、返事は返ってこなかった。でもフワンテは元々無口な質であるので、それはあんまり気にならなかった。ソラはこの景色に感動しているのだろう、素晴らしいことだと思ってフワンテは前を向いた。

あの不思議な味のする飴を食べてから、いつの間にかフワンテの体は前よりなんだか大きくなって、風にそこそこ抵抗できるようになっていた。ひゅうひゅうと体に吹きつける風を体に吸いこみながらフワライドになったフワンテは少し目を細めた。もうそろそろ日が暮れる。山の下に追い立てられる太陽と、それに入れ替わるように山の向こうからだんだん迫ってくる真っ暗。空の上を全部それが覆ったら、空にきらきらした白いものが輝き始める。そうしてそれがだんだん見えなくなって、真っ暗も薄れたら、追いたてられた太陽がまた山の下から空の上にあがってくる。それはかなりまぶしいけれど、何もかもがきらきらと輝いて見えるその瞬間はおそらくソラも気にいるはずだ。

きっとあの頬をぬらす涙も、もう止まった事だろう。フワライドはソラと一緒にみるそれが楽しみで、もう少し目を細めて笑った。


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