夢十夜


それはしとしととしめやかな雨が降る、長い長い冬の夜のことでした。

いえ、たしかに冬の夜というものは特別長いものではありますが、何かが起きるというときはたいてい、時間の流れというものは遅くなる場合が多いのでございます。

さて、その時私は落し物の分類を、とある部屋で行っておりました。ギアステーションは主にポケモンバトルを行う場所ではありますが、同時に駅としての役割も果たしているのです。
なので、電車内に忘れ物をなさるお客様は、案外多いものなのでございます。

しかし、それらのほとんどは持ち主の手元に戻ることなく、破棄されてしまうものでございます。それでもその幾つかは無事に主人の元へ帰っていきますから、その整備をすることも、私たちの仕事の内なのです。

もう何年も前のことでありますから、詳しいことは忘れてしまいました。でも、その日もいくつかの落し物がギアステーションの管理室まで届けられておりました。ハンカチや傘、書物。珍しいものだとモンスターボールや、ポケモンに持たせるかたいいしなどの道具。もちろんモンスターボールの中身は空の場合が多いのですが、そのようなものがギアステーションの管理室には毎日と言ってもいいほど届けられるのでございます。

なのでそれはある意味、必然だったのでしょう。私は今日のようにしとしととしめやかな雨が降る、長い長い冬の夜に。とある不思議な生き物たちとこの場所で出会ったのでした。

ここからは少々長くなりますが、今日は長い長い冬の夜。時間はたっぷりとあるのです。

ほら、壁にかかった時計を見てくださいまし。私は先ほど貴方にこの世界のことを長々と説明しましたが、それでもまだ五分と少し。時計の針が動いたのは、たったそれだけです。今日は、長い長い冬の夜なのです。

ああ、安心してくださいまし。怪奇現象などではないのです。これはそのように出来ているのです。私はもう諦めました。例え話し続け、または話を聞き続けて次の日とても疲労していても、私一人の犠牲ですむなら軽い話ですので。寧ろ私でよかったと申しましょうか、私の双子の弟はとても……失礼、脱線してしまいました。なんせ初めて人間の方がこうしてこちらに参られましたので、私、少しばかり緊張しているのです。

……さて、さて。それでは、始めたいと思います。これはとある落し物から始まった、夢のような物語でございます。

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