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さて、そんなことを考えながらもなんだかんだで薙刀の訓練を続けていた私は昨日15歳になった。ハッピーバースデー私。これがプレゼントなのかなんなのか知らないけど、今日は初陣だ。

そう、女が初陣なのだ。普通におかしい。流石に安芸でもこれはなかった。私が婆娑羅を発現させたのは確か、城を追い出されて何年かたったあとだった。城に戻ったあとに婆娑羅のことが知れて、それで一躍総大将のような立ち位置に置かれた。だが、最初は戦にすらほとんど出なかった。だからこその采配だ。軍師として兵に支持を出すための道具。万が一敵が私の元まで来てしまっても対策ができるように、少し特殊なものを使っていたけど。

だから私が輪刀を使い自ら戦場に立つようになったのは、戦の空気になれてしばらくしてからの事だった。周りも無理強いはしなかった。だからおかしいんだってこれ!普通は女は戦に行かないから!私もてっきり嫁がされてそれから夫に言われて戦に出るんだと思ってたから!

「ナマエ、怖いか?」
「………父様」

まさかのことに、特注の逆刃薙を両手に握り締めながら虚ろな目をしていた私に、父親がそう声をかけて来た。少し考えて、頷く。実際怖かった。

「あまり気を張るな」
「……はい」

だって、柴田家が織田の傘下とか知らなかった。少し離れたところから、多分、未来の信長公と思わしき青年が私のことをじろじろ見ているのが分かる。理由はなんとなくわかる。確か・・・ええと・・・今回第五天魔王はあんまり私と年が離れてないはずで、それで女性の使う武器は基本薙刀なのだ。

女性は髪をのばすものだ。だから私の髪の毛はかなり長いし、顔以外は記憶にある彼女に似ていると言えなくもない。きっと背格好もそんなにかわらないし、色々なことがショックで元気がない今なら尚更似ているだろう。あとで第五天が現在何歳なのかを父親に尋ねてみようと思いつつ、私はその視線に気づいていないふりをした。

「いいか、ナマエ。お前はここで見ているだけでいい」
「………え?」
「今回は……そうだな、初陣のような形になってしまったが、私はお前に婆娑羅者の戦いぶりを見てほしかったのだ」

少しだけ、何かをためらうような顔をした父親は私に続けて何かを言った。でもその声は時の法螺貝にかき消されて私の耳には届かなかった。もう一度、と聞き直す前に肩を叩かれてあちらを見ろ、と指さされる。

「あれが、信長様だ。あの方は闇の婆娑羅をお持ちになっている」

恐ろしい方だ、と父親が小さく呟いた言葉に頷く。前に一度だけ、彼の戦いを見た事があった。明智光秀に討たれる前のことだ。変装をし、戦の見物をしている民にまぎれてその様子を見た。偵察に行かせた駒がみな酷く怯えて、しばらく使いものにならなかったためだった。

あの時でさえ恐ろしいと思った。今もそうだ。闇の婆娑羅は恐ろしい力だ。腕を一振りするだけで、敵兵が何人も死ぬ。その命を吸い取って、彼の力はますます強大なものになっていくのだ。その姿は正に魔王だった。


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