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泥にまみれた足裏を、小屋のなかにあった水瓶の中に満たされていた水を貸してもらって洗い流す。丁度いい感じの布は見当たらなかったので、自然乾燥を待つのみだ。

開け放しの扉の外には自然が広がっている。いや、でも少し人の手が入っているだろうか。僅かに見える畑らしきもの、この小屋だって手入れが行き届いている。

ここに住んでいる誰かに土についた一つきりの足跡から行動を予想されそうで、ちょっと恥ずかしいな、と思いながら足を空中にぶらぶらさせてぼんやり外を眺める。

「・・・・・・・・誰が住んでるんだろう」

私がこれまで居たところとは全く違う、光にあふれた場所だなぁと思った。山の真ん中あたりにひっそりと建っていた、というのも関係しているだろうが、あそこは中々日光が入らない上に川からも遠いし、土は固いしであんまり良くない物件だったのだ。勝手に住まわせてもらっていた立場でこう悪口を言うのもアレだが、でもあの小屋を建てた奴は考えなしの馬鹿だと思う。

「・・・・・・・・」

まぁ、明らかに世を忍ぶ、って感じだったから仕方ないのかもしれないけど。
何年か前に土に埋めたあの死体のことを思い出す。そんなに見つけづらい所で息絶えていたわけではなかった。あの小屋に尋ねて来る誰かがいれば、すぐわかるような所に倒れていた。つまりはきっとそういうことなのだ。川のそばや日当たりがいい見晴らしのいい場所には立てられなかったのだろう。

「ままならないなぁ」

今回の事だってそうだ。人は一人じゃ生きられない。
そう思いながら床にごろりと横たわる。少し動いたからか、また体が熱を出し始めていた。こういうことがあるから、風邪は嫌いだ。

ひんやりと冷えた床に頬をつけて、それに既視感を感じる。目が覚める前の事がひどく遠い昔のようだ。あの時と同じような事をしているけど、今回はさみしくはなかった。誰かが助けてくれた、というそれだけのことで安定する精神を自嘲しながら眠りに引き込まれていく。こんなひえたところで寝たら悪化してしまうかなとも思ったけど、風邪引きで弱った意思では布団にもぐりこむことなんてできそうになかった。

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