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留置所の中で目を覚まして、ふと思ったことは、もうN様はいなくなってしまったのだろうということだ。きっとN様は負けた。あの強い目をした少年に、打ち倒されてしまった。見なくてもわかる、聞かなくてもわかる。僕はあの少年と初めて会ったときに、プラズマ団は負けるだろうと強く思ったのだ。まるで予知のようにぱっと頭のなかにその考えが現れたのだ。そしてその予想は、おそらく当たっている。

「・・・・・えぬさま」

僕らの礎であった彼を思ってじわりと溢れ出て来た涙を団服の裾で拭う。誰にも泣き顔を見せたくなくて俯いた僕の腰のあたりからぱしゅんと小さな音がして、それから頬がなにか生暖かくぬめぬめしたもので拭われた。涙がぽろぽろこぼれるのも気にしないで顔を上げれば、そこには僕のレパルダス。N様からもらった可愛い子。人間不信の可哀想なポケモン。

「ちょこ、」
「にゃぁん」

出会った当初は僕を、人間を嫌がって暴れに暴れまくったチョロネコは、それでも僕らの思想に協力しようと懸命に働いてくれた。そしてレパルダスへと進化した。人間を嫌っているはずなのに、今でも初めの飼い主が付けてくれた名前に執着しているこの子のことを僕は気にいっていた。僕はプラズマ団に所属して、トレーナーからポケモンを守るための活動をしていたけど、やっぱり心の奥底ではポケモンとトレーナーという関係が好きだったから。

そのことを分かっていたのだろう、ちょこはあまり僕に懐かなかった。他の団員は、N様からもらったポケモンと良い関係を築いていた。いつかわかれるとは言え、僕らはポケモンの事が嫌いじゃなかったのだから。その点においては、ポケモンを思い切りこき使って働かせるプラズマ団員とは仲が悪かった。いま思うと、そこで内部分裂が始まっていたのだからプラズマ団の寿命はそんなに長くなかっただろう。そしていつかは破滅が訪れていただろう。僕らのN様と愛しいポケモン達を巻き込んで。

そのことを考えると、これで良かったのかもしれない。無理にポケモン達を解放させないほうがいいのかもしれない。ポケモンを不当に扱う人間より、良い友である人間たちのほうが多いのだから。だから、これで。
でも、やっぱり気がかりだ。

「えぬさまは、えぬさまはきずついていらっしゃらないだろうか。なぁ、・・・・」

溢れ出る衝動のままに目の前のちょこをぎゅうと抱きしめる。ふかふかの毛並みに顔をうずめて、僕らは負けたよと彼女に告白すれば、彼女はわかっているとでも言うように、僕の背中を尻尾でゆるやかに撫でた。

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