メアリー4


でも、壁に寄り掛かって彼らとトムを待つ私の耳に聞こえてきたのは大きな悲鳴。あれはトムの声、彼に何かあったんだ。
トムの言いつけも忘れて急いで扉に向かって走りだす。おかしい、呼んでくるっていってたのにあんな絶叫が上がるだなんて。

「・・・わっ!?」

あと一歩でドアノブに手が触れる、と思った瞬間に向こう側から開いた扉。赤いスカートを履いた女の子にぶつかって、思わず尻もちをつく。そのせいで薔薇がポケットから落ちた。あわててそれを拾いあげて後ろ手に隠す。

「ちょっと、大丈夫?」
「・・・・・・・!」
「あ!待って!」

女の子の次に通路に入ってきた男の人にそう声をかけられて、造花だって、ばれたんじゃないかと思わず後ろに後ずさる。いざとなったら逃げるしかない。あの悲鳴を聞いた今、私の胸の中にあるのは恐怖心だけだ。

「ねぇ・・・あなた、もしかして美術館にいた人じゃないの?」
「あ・・・・・」
「やっぱり・・・・・」

「人」ではないけど、私は「美術館に居た」。なんと答えればいいか分からなくて唾をのみ、言い淀んでるうちに男の人は勝手に勘違いして自己紹介を始めてしまった。アタシはギャリー、この子はイヴ。美術館にいたはずなのに気がついたら変な所に居て、今出口を探している最中なの。

「貴方もそうじゃない?」
「あ、えと、・・・・・・うん。私も、探してたの」
「あぁ、やっぱり!ねぇよかったら一緒に行かない?」
「・・・・・え?」
「女の子一人じゃ危ないわ。ここ、変な生き物が沢山いるのよ。だから一緒にいきましょ、皆でいた方が心強いし」
「うん・・・・・・」

こう思い通りに進んでいいのだろうかと思いつつ、少々警戒しながらもギャリーの提案に頷く。相手がこっちに警戒心をもたなければ、私も安心して出口まで案内出来る。と言っても、私はそれが何処にあるのか知らない。知ってるのはトムだけだ。でもそのトムも消息不明。だから彼らが見てない隙にこっそり作品達に尋ねなきゃ。

「んじゃ決まりね!あ、名前はなんていうの?」
「メアリー・・・・・・」
「メアリーね!よろしくメアリー」
「・・・・・・うん!」

にっこり笑ったギャリーに、私も笑顔を返す。久しぶりにこころのそこから笑った気がして、口元をゆがめながらほっぺを抑えているとギャリーの後ろからおずおずと私の様子をうかがっている女の子と目があった。確かこのこはイヴって名前なんだ。

「イヴも、よろしくね。一緒に出口を探そう」
「・・・・うん、メアリー。よろしくね」

おずおずと差し出された小さな手は柔らかくて温かかった。

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