電気羊12
そうして、ようやく僕がアンナのことをしっかりアンナと呼べるようになったころ。店に変なお客様が来店するようになった。ほぼ毎日いらっしゃっては、ここはボーカロイド専門店だというのに店の隅っこにある御菓子コーナーでしか買い物をしない不思議なお客様。
「525円になります」
「………」
こういう風に少しだけ御菓子を買って、会計のときに僕の顔をじろじろみて帰っていくのだ。変装しているとは言え、やっぱり僕の顔は「カイト」だから、注目されるのもわかってる。でもこうも毎日顔を見つめ続けられていると、なんだか不安になってしょうがなかった。
「……あの、お客様、僕の顔になにか?」
「…………」
意を決して話しかけてみるも、帰ってきたのは沈黙のみ。これがマスターたちがしばしば被害になやまされているストーカーというやつだろうかと考えていると、お客様がにやりとわらった。その攻撃性を含んだ不気味な笑顔に快のパッチが作動して、僕の皮膚がざわざわと鳥肌をたてる。
「いやぁ、店員さん、カイトににてると思ってね」
「………よく、言われます」
「そうだよねぇ、そうだよねぇ、」
声もちょっぴりにてるもんねとお客様は可笑しそうに笑う。思わず一歩後ずさった僕を追い詰めるようにお客様がカウンターに手を置いて、三日月のように歪められ、欲望にぎらぎらと輝く瞳が僕の目をのぞきこんだ。
「君、本当はあのカイトなんでしょ」
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