シャチ5


咳き込み続ける人間を背中に乗せながら、私は陸地へ向かって進む。ここから陸地まで随分遠い。人間が泳いで帰れる距離じゃないし、この人間はまだ子供だ。見捨てる理由があろうか、いやない。

「ぎぃ?」「ぎゃぁー!」「ぐあっ」
「ぎゃおっ!」

心配する仲間達の声に゛ちょっとそこまで!゛と返すと、背中の子供がびくりと震えた。ああ、怯えさせてしまったか。すまないな。別に君を食おうとしてるわけじゃないから安心してくれ。
それよりも、濡れた体には吹き付ける潮風は酷な事だろう。早く戻ってあげるから背中で大人しくしてくれると嬉しいな。

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