ボーカロイドは電気羊の夢を見る


僕らは歌うために生まれてきた。合成樹皮の皮膚に塩化ビニル製の血管を流れるオイル。脳味噌のかわりに電子頭脳。排泄も食事も、なにもいらない。僕らはマスター達のようなカタチをしてるけど、中身は全然違うものだ。それを不思議に思う僕は、おかしい欠陥不良品なのだろうか。マスターに調節され、歌を歌わせられるのでなく、自分で好き勝手に歌いたいと思う僕は、電子頭脳に不具合があるのだろうか。2度目の返品に首を傾げるボーカロイド専門店のマスターに頭を下げて、僕は倉庫で自分の電源を切る。ぶぅんと鈍い音ともに暗くなっていく意識に身を任せながら、多分マスターは次かその次、僕がまた返品されたら僕を壊してしまうんじゃないか、なんてことを考えた。でもそれもいいかもしれない。歌は歌いたいけど、僕は。僕は。ああ、僕が人間ならなぁ。声高らかに好きなだけ、それこそ一日中歌っていられるんだろうな。

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