自分が手篭めにされようというまさにその時でさえ、俺はこれがドッキリではないかとボンヤリ考えていた。そうじゃないことはわかりきっていたし、少なくとも今回は俺は無事じゃ済まねえだろうなぁと理解していたのに。
興奮し過ぎた万事屋の手は帯を解くのも覚束なかった。逃げるなら今だとわかっていながら、俺は止めなかった。遅れればいいと思った。その間ずっとキスできるから、ずっと手間取ってればいいと思った。
でも奴はとうとう帯を解いてしまい、下着さえ取り払われ、俺は全身を奴に晒すことになった。
途端に唇が離れていった。見捨てられた気分だ。早くもう一度合わせたい。俺は無意識にねだったのだろうか。
万事屋は首筋にかぶりついてきた。血管噛み切られて死ぬ、と思ったのは一瞬で、ぺろぺろと舐められたかと思えばきつく吸われ、それを繰り返して胸まで銀髪頭が降りていく。そして、乳首を……弄り出した。ちゅうちゅう音がするほど吸い上げたり指で摘んで捻ったり。
俺は女じゃない。そんなところ何も感じない。それでも男は乳首ばかりを念入りに愛撫する。
あの女の、代わりなのかもしれない。
考えたくない。
考えないように、与えられる感触に集中した。万事屋の唇はどこで受けても心地よかった。それに縋れば、女のことは忘れられた。
銀髪はさらに下へと動き、腹筋や臍を舐める。ああ、このままでは見られてしまう。今さらに俺は帯を抜かせたことを後悔した。俺の欲の証が反応しているんだ。不味い。どうしよう。
なす術もなく、万事屋は俺のものに触れた。勃ってると指摘され、恥ずかしさのあまりその一点を隠そうとしたら却って奴の目を楽しませることになった、ようだ。
何が楽しいのか、実はよくわからなかった。
「大人しくしてりゃ半勃ちのチンコ見られるだけで済んだのに。完勃ちの上にケツ穴までまーる見え」
それで初めて理解した。畳み掛けるようにアナルセックスについて聞かれ、碌に答えられないうちに『突っ込む』宣言されてしまう。
ゆっくり性器を擦られ、咄嗟に声が出ないよう息を飲んだ。それでも身体の反応は止められない。万事屋は自分の手元をじっと見つめている。つまり、俺のあれだ。こいつの手で気持ちよくなって、腫れ上がってる俺の欲だ。
恥ずかしい。男なのに男に弄られてこんなに感じて恥ずかしい。普段顔を突き合わせて普通の会話をする男に、普通でないところを晒し感じ入っているのが恥ずかしい。
早く恥ずかしいのをやめてほしい。ああ、でも気持ちイイ。もう一回キスすれば何も考えなくて済む。キスしろバカ。さっきみたいなキモチいいキスを、
「あ……! やめろッ、ふざけ……ぁ」
どういうことだ。何やってんだお前。そこじゃない。キスしてほしいのはそこじゃない。ないけど、
「やめッ!? よろ、ず……ハッ、はぁ」
陰嚢まで手のひらに包まれて刺激され、息が詰まる。気持ちイイ。ダメだこんなの、恥ずかしい、間違ってる。でも気持ちイイ。
とうとう万事屋は俺の物を吸い上げ、尿道口に舌を入れ、中身を吸い出すように追い詰め始めた。泣きたい。声が我慢できない。せめてもの抵抗で腰を引いたり左右に逃したりするが、そんなの役に立たないことはわかってる。
どうしたらいいんだ。どうしたいんだ俺は。
男が男の手に感じるなんて変だ。変なのに俺は気持ちヨくて、止めたくないと思ってしまう。止めないで欲しいと思ってしまう。おかしいのに。万事屋にとっても、こんなことは良くないのに。そう思うのに本気で止められない。
だが状況はいよいよ差し迫ってきた。
「え……おい、なに……どこをっ、くあ!?」
尻の穴を弄られている。弄られるどころか、何かが入ってくる。指、なのか。セックスって、正気か。でも侵入するものは最初より太くなり、異物感が酷い。
「よ、ろ、ずや……ぁんん、痛ぇ……それヤダ痛えよ」
締まるための筋肉を無理矢理拡げられる苦痛。それだけじゃない。
怖い。腹のなかを直接弄られるようで、万事屋が今その気になれば俺は中から腹をかっ捌かれる、万事屋がそれをするとは思わなくても恐ろしい。
その上入れた物を抜き差しするから、腹の中が強制的に押し付けられ、引き攣れて酷く痛い。抜いてくれとなんとか頼むと万事屋は抜いてくれたが、ホッとする間もなくそこに熱い物が当てがわれた。
「ま、まさか……なあ、嘘だろ、本気じゃねえ、よな? 入ら、ねってば……やめてくれ」
脚を万事屋の肩に担ぎ上げられて、逃げられない。ああ、今ごろ逃げたって遅いんだわかってたはずだ、
「むり、むりだ……無理だ! 裂ける無理だッ! よろずやぁ! あ、ああぁあぁああ!?」
入ってくる、さっきとは比べ物にならない質量と熱の、硬い切っ先が、
「痛い! 痛い痛いイタイいたいィィィイ!! 頼むやめてくれ……うあぁあぁぁ!」
容赦なく侵入して強制的に俺の腹を押し広げて、苦しい、痛い、こんなの嫌だ、
「よろずやぁ……よろ、ず、ぐあぁぁあ! 動くな、動くなぁぁぁ! いだいッいだいやめで」
キスがいいんだ。かなり強引だが優しい、あのキスがいい。その続きの行為がこんなに苦しいなんて思いもしなかった。万事屋の雁首が俺の中を抉る。尻の穴を拡げ、圧迫する。痛い。涙が出るほど痛い。
みっともなく泣きながら懇願すると、意外にも万事屋が俺から離れていく。それは嫌だそうじゃない。身体を拓かれるのが辛かっただけで、離れたいわけじゃない。
「……けっ、根性もクソもねえな。白けた。帰れ」
未だ嘗て聞いたことのない、冷ややかな声がした。
そんな訳がない。お前は、なんやかんやで結局俺を切り捨てることはなく、次に会った時は絡んでくるに決まってる。
決まってるのか? 最近ずっと会わないのに?
「これも、ドッキリなのか?」
何が本当で嘘なのか。俺には分からなくなってしまった。
そうなって初めて俺は、万事屋を、坂田を正面から見つめた。ほんの少しの表情も、隠し事も見逃さないように、泣きすぎて曇った視界を必死に広げた。
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