仕事だろ仕事、ストーカーの炙り出しとか何だか知らねえがただの送迎とか、仕事だ、絶対。
 女に甘い顔してンのは、金払ってもらえるからだろ。肩並べてんのは恋人のフリしろとか言われたんだろきっと。


 万事屋は再び俺の前を、女連れで歩いている。今度は気付かれていないようだ。

 女の顔はよく見えない。だが雰囲気から、堅気の女ではない。万事屋同様、呑気に歩いてるように見えるが隙はない。
 いや隙ってなんだ俺、隙があったら斬るつもりか。いやいやいやなんで斬るんだ罪も何もない一般市民を、堅気じゃないからって斬るのはダメだろ、 うん。
 笑っている。俺の知ってるアホ面ではなく、心から楽しそうに笑っている。女は揶揄われて怒って見せているが、喧嘩になる様子はない。
 そして二人は普通に、ごく普通にスーパーに入っていった。


――なんだ、俺がいなくても平気じゃねえか


 あの女は万事屋に上がって野郎に飯を作る。都合よくあそこには子供たちがいる。血の繋がりはなくとも、一家団欒の図が出来上がるはずだ。あのバカはそれを今のように、穏やかに、楽しそうに眺めるんだろう。いやいいけど。別に全然構わないけど。俺には関係ねえし。
 似合い、だったか。そうだろうか。
 堅気じゃねえ、つうか完全に色街の女だ。だがそこらの女とは違う品がある。花魁……いやまさか。花魁とはあんな格好でスーパーに行くような存在じゃない。禿が行くもんだ。え、そうなの? スーパー行くの、禿って。おかしくね? でもイマドキの花魁ならコンビニアイスが食いたくなることも……え、待てよ花魁てコンビニアイス知ってんのか。待て待て待てそんなこたどうでもいいんだ俺は何を考えてるんだあの女が花魁だろうが刺客だろうが俺には関係ない。



 万事屋の女でも。



 ――俺を見て。ひじかた


 ドッキリだったのか。成功して笑ってたのか。本気にすんなよアホだなと嘲笑っていたのか。
 そうだ。あの野郎はそれくらいしかねない。
 だったら俺は腹を立てていいはずだ。ドッキリ仕掛けといて種明かしもせず、仕掛けたことも忘れてんじゃねえのかってくらい放っておきやがって面白くもなんともねーんだよ。
 腹を立てるなら俺の感情、いや関心が万事屋に向くのは自然なことだ。いつも通りだ。女の前だからってカッコつけられると思うなよ。

 二人は程なくして、とんでもねえ量の食料品を持って出てきた。今度は野郎が女に下手に出てる。女は笑って流す。
 綺麗な、女だった。
 顔に傷があったがそれさえ彼女を引き立てる要素になるくらい、美しい女だった。
 ほら、早く行けよ俺。あの女に、こいつこの前俺を口説いたんですって言ってやれ。ドッキリ仕掛けといて忘れちまうほどのアホなんですけど、よろしくお願いします、と。


 言えやしなかった。


 それどころか二人が去るまで、俺は身動きひとつできなかった。
 なあ、ミツバ。俺はこんなにも醜い。


 詰りたかったのか、嗤ってやりたかったのか。どうすれば俺の気は収まるのか。
 夜中になっても俺はどうしていいかわからない。ハッキリしたい。だが何を。どうやって。

(奴は万事屋じゃねえか)

 万事屋は他人の依頼を請けることはあっても、他人に依頼することはない。あの女は請われて万事屋に行ったのではない。進んで訪ねたのだ。そして万事屋もそれを受け入れるほどに、近しい関係なんだ。
 万事屋に行ったのは確実なのか。だって二人でスーパーだぞ。スーパーで買い物して、そんじゃまたなって別れるのはおかしいだろ。女の家に行ったか、万事屋に行ったか、どっちかだろ。荷物大量だったし到底一人分じゃない。いくらチャイナ娘が大食いだからってアレはナイ。あれ、なんで俺チャイナ娘が大食いだって知ってんだ、いや違うこれは断じて万事屋から聞いた情報ではない総悟だ総悟、夜店で集られて小遣い失くした総悟に違いない。

(確かめに行きゃいい)

 そうだ。そうしよう。それがいちばん早い。

 わかっているのに億劫で、でも悶々としているのも気分が悪すぎて、寝苦しい。
 万事屋に行こう、と決意して布団を出た。軽く浴衣に着替えて、刀を差す。
 行くと決めたのに心はぐらつく。煙草なんぞ吸おうものならそのまま座り込みそうだ。
 自分で決めたというのに誰か(具体的には山崎)に八つ当たりしたくなるほど気が進まないまま、俺は屯所を出た。




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