そんな訳で俺はこっそり万事屋を覗いてみることにした。なんで俺がコソコソしなきゃならんのか、その辺は今ひとつ納得がいかないが背に腹は替えられない。なぜならあの後近藤さんにまでバレてるのが発覚したからだ。あの呑気な近藤さんが苦笑しながら『今回の喧嘩は長いな』なんぞと言ってきたんだ。何の話だと聞き返したら

『またまた。トシ、万事屋と喧嘩しただろ。ピリッピリしてるもの』

 まあ……した。喧嘩っつーかそもそもそんなモンするほどの仲でもない。気に入らねえ奴だったんだ。しかも今となってはこの俺に、つ、付き合えとか言い出したクルクル天パだ。ピリピリしたくもなるが、屯所でいつまでも殺気を放ってても仕方ない。
 ここはひとつ、万事屋に乗り込んでってキッチリ型をつけてやろうと、俺はかぶき町に出向いた。コソコソしてるのはアレだ、あの野郎が俺に気づいてまた意味不明なことを(今度は大通りで)叫んだら俺が困るし、もしかして野郎が逃げ隠れしてるんじゃないかという疑いもあったからだ。後者であれば坂田は多少マトモだったということにはなる。

 屯所からかぶき町までは、歩くとかなり距離がある。パトカーで乗り付けるのもどうかと思って歩きにしたのだが、早朝から真選組の隊服でうろつくもんじゃねえな、思う。どいつもこいつも虚ろな目で、多分前夜の酒が残ってンだろう、男も女も疲れた顔して、そして俺を睨む。
 そりゃあ後ろ暗いところがあったりオマワリと肌が合わなかったり、そういう連中が住む街だから仕方ないのだが、『坂田の街』に撥ね付けられるのは少し凹む……ってなに考えてんだ俺はイカンイカン、基本に戻れ俺は男とは付き合わないし坂田は男だし仮に女になったらそれは坂田銀時ではないから興味ねえし、ってあれ? ちょっと待てこれ以上考えるのは止めよう。


「土方さん? おはようございます」
「何してるネ珍しい」


 げっ。万事屋の子供たちに見つかってしまった。デケェ犬も一緒だ。
 合流した途端に通行人の目が穏やかになったのがあからさまにわかった。ああ万事屋さんのお知り合いなのね、みたいな。ふざけんな俺は機会があれば万事屋をしょっ引きたいほうだから。馴れ合いとかやめろ。と思うのにホッとしてる自覚がある。忌々しいことこの上ない。

「銀さんならちょっと先に……銀さーん! 土方さんが」
「オイよせ、声掛けんな」
「銀ちゃーん! 財布が歩いて来たネー」

 止めるのも聞かずに子供たちは先へ駆け出した。行く先を目で追えば、確かにふわついた銀髪。

 子供らは銀髪に何か言いながら俺のほうを指した。チャイナ娘が大はしゃぎなところを見ると、またしばらく貧乏暮らしをしていたのだろう。奴は別として子供たちには食わしてやらんでもない。まずはあの男の謝罪が先だが。
 だが予想に反して、銀髪は振り向かなかった。何の動作もしなかった。子供たちは引きとめようとし、俺と坂田を見比べたが坂田は気にもかけない。そして更に驚いたことに、チャイナがデカ犬に乗って帰ってきて、

「今日は銀ちゃんがご飯作るから他人にタカるな……って」

 しょんぼり項垂れている。
 確かに今まで彼らと飯なんざ食いに行った試しはないし、子供といえど万事屋で、しっかり俺にタカる気で声をかけたに違いない。それを嗜めるのは普通の大人の役割だが、あいつが普通の大人と言えるか。否。将軍のペット探しと聞いて即金を取ることに結びつけ、メガネとともにニヤけながら使い道を算段してた男だ。今更何を言うか。
 驚いてる間にチャイナはスルリと坂田を追いかけて、俺の前からいなくなった。
 前に小さく三人の背が見え――人混みに消えた。



 避けられていたのだと、遅ればせながら気づいた。きっぱりと背を向けて、家族とも言える子供たちすら近づけないほどに。
 真っ当な判断だ。
 きっと万事屋はあの時、俺に何か同情心とか親切心とか、なんかこう、いつもは持たない気持ちを持ったに違いない。いつもと違いすぎて自分でも驚き、あろうことか恋愛感情と勘違いしたのだ。そして我に返った。
 今の万事屋が正常なんだ。
 良かったじゃねーか、これでアホ天パと気まずくならないで済む、っつーかクソ天パはもう俺に絡んでこねえんじゃないかな。良かった。うんざりしてたとこだし。うんざりしか、したことねえし。



 屯所に帰ったらまず総悟がヒトの顔色にケチをつけ、次に山崎が『あんまり無理せんでくださいよ(あんたに倒れられると厄介……云々。ぶん殴った)』などとオカン気取りで文句を言い、近藤さんまで『今日は仕事しないで、寝てていいよ』とか言い出して非常に不愉快だった。
 まったく、あのヤローに関わるとほんとロクなことがない。消えてくんないかな、俺の視界から。



 ――ああ、もう消えたのか



 



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