『だって、あの人に何となく似てるもの』




 俺に似てると言われて、あの目つきの悪いチンピラ野郎を思い出しちまった。
 いくら総一郎くんの姉ちゃんだからって、ナイよな。ナイナイ。うん。
 こんな綺麗な可愛い人が、あのチンピラニコチン野郎に惚れてるなんて。
 ない。絶対あり得ない。
 あれっ、でも総一郎くんのお姉さんてことは出身地も一緒ってコト?
 いやいや。そうだとしてもだよ。『あっちの方』であって同じトコとは限んない。そもそもあのチンピラニコチンマヨネーズ野郎はいつからゴリラにくっついてんだろう。江戸に出て来てからだろ。そうだと言って総一郎くん。ねっ、横入りされたから怒ってるんだよね。そうだよね。

 いいから黙ってそうだって言えばいいんだよクソガキ。あれ、黙って『そうだと言う』のは無理か。無理だな。じゃあそうだって言った後は黙ってろ。永久に口閉じてろ。や、それだとお姉さん悲しむから俺の許可取ってからお姉さんと会話しろ。余計なこと言うな。テメーが依頼して来たんだから最後まで責任持て。
 結婚しちゃうんだろ? この人。
 だったら最後まで夢見せてくれてもいいじゃん。俺にだけど。この人は何にも知らなくていいんだけど。

――銀さん、総一郎くんのお姉さんに恋してしまいました。





 ところが世の中そう上手くいかなかった。
 なんだってこんなタイミングでってとこであの野郎は現れた。そして、ミツバさんは驚いて……倒れてしまった。
 咄嗟に抱きとめた腕に、骨張って痩せた小さな体は軽過ぎて。
 酷く咳き込む様子から、病が軽くないのもわかってしまって。
 初めて会って、ほんの少し夢を見たかった儚いひとの体越しに、あいつが蒼白になって、手を伸ばしかけたのが見えた。


 ああ、お前なのか。


 この人の言う『あの人』はお前のことか。
 そんでこの人は俺に、よりによってお前の影を見たのか。
 がっかり? とんでもない。
 惨めだよ。
 そうだよな、お前は……お前みたいな奴に惚れるほうが、女として普通だよな。俺が女だったら俺よりお前を取るわ。そらそうだ、見た目がよくて剣も強くて清く正しい、正義の味方。
 ごめんなミツバさん。

 俺は、人殺しだ。
 あなたには相応しくなかった……そんなの、当たり前だったのに。







 パトカーのライトでこれ見よがしに照らしてやった先には、あいつがいた。
 崩れ落ちていく体を受け止めようと咄嗟に手を伸ばしたが、必要なかった。あいつはしっかり抱きとめられ、激しい咳き込みを宥めるために、俺ではない他の手がその背中をさすっていた。

 よりによって、あのクソ天パ野郎に。

 どういうことだなんでテメーがミツバと居るんだテメーって野郎は何でもかんでも首突っ込んできやがって、そりゃあ俺は昔その女を捨てて故郷から出てきたしその女より近藤さんと真選組を選んだサイテー野郎かもしれないがテメーである必要があるのかどうなんだ、だいたいミツバは仮にも婚約者の居る身だぞほんとに仮だけどなでもそんなことテメーは知らねえはずだし知ってたらこの場でしょっ引いてバリバリ拷問かけて洗いざらいどころかナイことナイこと吐かせてやりたいが、そういうわけにもいかない。
 ほんとムカつく、マジでムカつく。
 どうしてこんな個人的事情にまでしゃしゃり出てくんだこのクソ天パ糖尿野郎は俺にもそれなりに感慨だとか思い入れっつーモンがあんだよ少しは遠慮を知れ、イヤまさか万事屋だからなんか頼まれたとか、イヤイヤなんで上京したてのミツバが万事屋なんか知ってるんだあり得ん待てよこのクソ天パ糖尿ニート野郎は総悟と気が合うようだから総悟に何か吹き込まれたのかそうなのか、何を吹き込まれたやっぱり拷問室に連れてくか。

 屋敷から人が出てきて、ミツバだとわかると急いで中に入れようとする。それをあの野郎は日頃の怠惰さも何処へやら、発作の起きた状況と今日の行動をてきぱき伝え、手早く女を運んでいく。


 ああ、そうだな。


 俺はミツバを捨てたんだ。お前と違って後ろ暗くて、とても彼女と目を合わせられない。ミツバだって俺を見た途端に具合が悪くなったじゃねえか。それだけ俺は彼女にとって害悪なんであって、その白髪頭みたいに『困った奴はほうっておけない』なんて口が裂けても言えやしない。

 すまねえ、ミツバ。
 俺はお前に相応しくなかった……今も、昔も。



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