考えてみりゃマヨラーが次の女を作ろうが作るまいが、俺にはそれこそ関係ない。


 と思うのに俺は何かしらモヤモヤしてて、新八と神楽が鬱陶しがるのをいいことに夜の街にヤツを探しに出た。俺は相当ウザかったらしい。珍しく子供らが報酬をきっちり三等分して俺の分を押しやり、『帰ってくんな』と言った。それに良く考えたら俺たちはあいつの着物も刀も取り上げっぱなしだったのに誰も気づかなくて、返してなかった。刀無しは流石にマズイだろう。だから俺はかぶき町をうろついている。

 マヨラーから巻き上げた金なんてさっさと使っちまうつもりだ。にしてもアイツ、財布にどんだけ入ってんだ。現金でいきなりこんだけ出せるって、どんなお大尽だ。許せん。しかもあんな可愛い女の子に惚れられて迷惑するなんて、贅沢にもほどがあんだろ。恵まれ過ぎだろ少しその恵みを俺に分けろ。でもあの娘は嫌だ。会話が成立しなそう。


 マヨラバカはその頃俺に半端な絡み方しかしてこなかったというのに、今回は別れるのに必死で俺の言いなりになり、別れるためにはあのバカみてえに高いプライドを自らへし折って、アダルト映画を女連れで観る修行とか女の前でカツアゲに土下座する修行とか(最後のほうでキレ出したのはいかにも修行が足らないバカだった)、マヨ定食は一般的には嫌がらせなんだと言い聞かせたのにあの女が順応して俺たちが吐きそうになり終いにはマヨネーズ王国の王子という設定を持ち出して勝手に王国行ってろバカ、これで満足か満足だろうってツバ吐いてやりたい気分だった。着ぐるみと語尾にマヨくらいで、マヨネーズ王国の王子になりきってんじゃねえ。そんな着ぐるみで地球人辞められると思うなよ。


 しかし女は案外空気読める子だったのかそれともいい歳したオッサンの着ぐるみ姿に醒めたのか、マヨバカ王子のプランは成功して俺は無事に仕事から解放された。
 そのまま警察庁に報告に行く神経も知れなかったし俺たちが途中で着替えてんのに台車に胡座かいて腕組みしてエラソーに座ってるだけだったんで、そんなに気に入ったならと着ぐるみはくれてやった。
 最後の最後に栗子ちゃんにキスされたバカな王子は頬なんか染めやがって、その後ちょっと揶揄っただけなのにムキになっちゃってなんだそのオボコい反応、コッチが恥ずかしいわ!いい加減にしろ!だいたいなんなのそんなに逆上せてんならつき合えばよかったじゃん俺たち邪魔しただけなの、金貰えたらいいけどねうん、でも人道的にどうなのと虚しくなった。

 思い返してみたら面白くないこと山の如し。会って返却しがてら根掘り葉掘り聞き出そうと思ってたがその気が失せた。そんで真選組の代表番号に電話して、誰かお宅の副長サンの忘れ物回収してって頼んだら、沖田くんが来た。本体は山何とかが回収に行ったそうだ。バカかあいつは。警察庁まで歩いて行けたんならマヨネーズ王国でも屯所でも一人で行けバカ、と呟いたら沖田くんが面白そうに『なんだ成就しなかったのかィ』と言って、そもそもあの娘が勘違いするに至った経緯を教えてくれたけど興味なくて、適当にやり過ごして改めて街に出た。
 少し、頭を冷やしたかったのもある。



 ニコチンコは何を考えているんだろう。
 最近は俺にはたまに絡んでくるぐらいで、無視はしないけど前みたいに鬱陶しく怒鳴り合うには至らない関係が続いていた。俺はどうしてそうなったのかが少しもわからないが、ひとつわかったことがある。あのヤローは義務感かなんかで俺に声を掛けるだけで、他に何の感慨も持ってないってことだ。
 たとえば俺が団子屋でツケにしようとしたとき、いつもならしつこく追ってきて金払えと喚くのに、追って来ないばかりか親父の取りなしに大人しく引っ込んだそうじゃないか。
 そうなる前の発端、そもそも俺が二度目の飲みに誘った時だってずいぶんあっさり引いてった。『お前には関係ない』って言ったな。あっさりどころか冷たい壁を作りやがった。

 お前には関係ないって、親しい奴に言われたら……たとえばヅラが急にそんなこと言い出したら『こいつヤバイこと俺に黙ってやる気だな』って心配するしその前に怒るわ。関係ないってどういうことだって。ところが俺とマヨラーの間にはそんなこと言い募るほどの関係はない。スパッと切られたら俺は、黙って引っ込むしかなかったんだ。
 それなのに俺は、その前にヤツが酔い潰れて何か言ってたのに浮かれて、あいつとの距離が少しだけ元に戻ったと思ってちょっと調子に乗ってた。イヤなことを言ったような気もする。悪気なくイヤなこと言う奴がいちばん嫌われるもんだ。それでニコチンコはとうとううんざりして『関係ないから寄ってくんな』と言ったのかもしれない。

 その割りにあいつから俺に話し掛けるのはなんでだろうと思ってたわけだが、それなら話はわかる。あいつは俺を憐れんでいるのだ。関係ないことに首を突っ込んで空回りして、落ち込んだりエラソーにしたりしてる俺を哀れに思って、仕方ねえからたまには声でも掛けとくか、あんま落ち込ませても良くねえし淋しいって言ってたしな、てなもんだろう。
 淋しいってのはあの時つい口から溢れたんだけど、なにが物足りねえのか今日わかったように思う。

 あのバカが未だに現実を見ようとしていないから。
 あの女の子は間違いなく土方に恋をしていた。年相応に少し浮ついた恋かもしれないが、土方が好きで堪らなくて、それを隠すつもりもなかったんだ。なのにあいつは見向きもしなかった。一瞬注目したのはあのケッタイな食い物に女の子が反応したからであって、あの子を見たからではない(それもどうかと思うが。いろんな意味で)。親父が厄介なのかなんだか知らねーが、つき合いもせずに振っちまうほど悪い子には見えなかったのに――俺はヤダけど。会話がちょっと、イヤかなり困難なのは俺は嫌だ。でも愛があれば何とかなんだろ。俺は真面目に女の子とつき合ったコトないから知らねって、何言わすんじゃマヨラバカ。

 別れさせ屋にされたけど、マヨラー同士上手くやればいんじゃね、と投げやりになった。女の子が別れ際にキスしたのは微笑ましかった。バカを揶揄ったら赤面すんのがアホらしくて、余計なことしたんじゃねーのかなぁなんてちょっぴり後悔さえした。
 ――だが、土方は元の世界に戻った。



 早くこっちを見ろよ、とイライラするのかもしれない。
 もうミツバさんはこの世にいない。だから早くこっちを見ろ、と。
 誰でもいいからとは言わない。傷つく恋をしたくないならそれでもいい。真選組副長の恋人が普通より危険なポジションにあるのは当たり前で、そんなことわかりきった上であいつを愛してやる女なんていくらでもいるはずだ。あのバカが見ようとしないから見つからない、そんだけの話。そうだろ。あいつモテるんだそうだから。腹立たしいけどな。
 そんなこんなに、俺は歯がゆくて苛立たしくて、でも所詮俺は『関係ない』奴だから口も出せない。本当は関係あって、俺はお前の惚れた女に一瞬だけ心を寄せてしまったのだと言えば、土方はやっと耳を傾けるかもしれないがそれは俺がしたくない。過去の失敗をわざわざヤツに語りたくないし……やっぱり俺の中でもミツバさんは美しい思い出だからだ。



 店の扉が開く。
 そろそろ出たほうがいいかな。かなり居座ってるし。
 と思いながら店内を見回したら、黒い着流しの男が棒立ちになってた。


「土方……?」


 結局会っちまった。こんな日に。
 向こうもそう思ったらしい。入り口に突っ立って、穴が空くほど俺を睨みつけていた。
 その拒絶っぷりに、なんだかため息が出た。





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