何をどう納得したんだ、土方は。
 とにかく俺がわかってることは、土方が俺との関わりを一切持たないってことだ。眼にも入れないってことだ。いちばん初めに会ったとき、殺気とか嫌悪とか苛立ちとか、負の感情だけどそういうのを向けられた。今はそれさえ表さない。

 面白くない。

 不愉快って意味じゃないから。ツマンナイって意味だからね、当たり前だけど。だって俺があいつに無視されたからって俺の生活には支障ないわけだし、無視されたら腹の減り加減が増すわけでもないし、金が早く減るわけでもないだろ。
 ただ、生活の潤いっての? どうせ生きるなら楽しいほうがいいだろ、だから土方揶揄って遊べたほうがいいだろ、プラスαがないよりあったほうがいいだろ、と。そういうことが言いたいだけだから。うん。

 最後の会話も意味不明だ。
 何が気に障ったのか。そもそも飲みに行ったときだってあいつの行動よくわかんなかったけど、今回だって全然わかんない。
 失態に過剰反応するってことはわかった。過剰反応だよな? これもよく考えたんだけど、俺の独り言事件は客観的に見ても恥ずかしいよ。百人いたら百人が恥ずかしいよ。イヤ百人に聞いてないけど。聞けば全員が恥ずかしいって言うに決まってるからわざわざ聞かないだけだから。全員が『しばらく話しかけないでくんない』って言うよ。ダッシュで逃げるって。

 でも土方のは共感できるか?
 質問逃げってどういうことだよ。知りてえから聞いたんじゃねーのかよ。回答される前に逃げるって意味不明だろ? イヤみんなそう思うって。当たり前すぎるからわざわざ聞かないけど。アンケート取ってもいいけど紙が勿体ねーだろ。それくらい明白ってこった。
 更に理解不能なことに、わざわざ回答を持ってってやったってのに土方は、それっきり無視だ。ホント失礼なヤツだなあいつ。なに、そんなに俺と喋るのイヤなの。特に意味なく喋るのは嫌だったってことだよな? 俺あのとき、『特に理由はなかったんだよ』って言ったもんな。それが気に入らなかったってことだよな?

 なにそれ、俺は用事がないと土方に話しかけちゃいけないってこと? 今日調子どう、とか沖田くんに逃げられたの、とかマヨネーズまずそうだね、とか言っちゃいけないの。それ言ったらお妙の苦情を土方に伝言するのだってダメじゃね? 俺と土方には関係ない話題だからな。
 え、じゃあなに、俺は土方となに喋ればいいの。むしろ喋っていいの。ダメだったの。今までのはなんだったの自分からは斬り掛かってきたり飯屋で俺の好物にケチつけたり映画館で俺のポップコーンにケチつけたりサウナで俺の命令にケチつけたり、あれっ、あいつ俺のやることにケチしかつけてねーじゃんどういうこと。


「失礼なヤツだなホント。考えれば考えるほど失礼だろ、むしろ失礼以外働いてないだろ」
「アンタのほうが失礼だよ世間に対して! ゴロゴロしてないで仕事探してきてくださいよ!」


 あれっ、また心の声ダダ漏れてた!?


「あァん? いいんだよ仕事のほうから俺のこと探しにくんだから。待ってりゃいいんだよセカセカすんな」
「仕事が銀さんを探した試しがありますか!? さっさと行ってこいっての!」


 あれ、新八に心の声聞かれてもあんま恥ずかしくねーな。ま、いつものことだしな。それに間違ってるし。心の声聞き損なってるし。俺は仕事のこと考えてたんじゃないの。土方のこと考え……、


 は? 俺が土方のこと? なんで?


「イヤいらねーから。別に必要不可欠じゃねーから。あったらいいな、くらいであってなくたって死なないから」
「干上がって死ぬわァァア! いい加減にしてくださいよコノヤロー!」





 新八に放り出されて、仕方なく俺は甘味処に来た。サボりじゃないから。仕事中ならサボりだけど仕事中じゃないから。大丈夫だから。何が大丈夫なんだかわかんないけど。
 とは言っても懐具合は良くないから、少ない団子をちびちび齧ってる。我ながらみみっちい。けど甘味が切れると頭回らねーんだよ、わかってねーな新八のヤツ。だからオメーはハチなんだ。

 で、何を考えるかっていうと土方のことだ。もう認めよう。あの野郎が淡々と俺を無視する原因が気になってしょうがない。パズルを解くような気分だ。難問と言われるクイズを前にしたかんじだ。俺なら解ける、絶対わかる、なんならもう半分くらいは解けてるのにあと一歩なのにあああ気分悪い誰か解答教えてくれ、いやダメだ全部自分で解くからっつーか俺に解けないわけないって俺信じてる、って心境。自分でもウゼェ。
 言っとくが解けたからって土方んとこに答え合わせに行くつもりはサラサラないし野郎がその気なら俺だってあいつの肚読んで高みの見物させてもらうわ、俺関係ねーしただ『わからない』って状態が気持ち悪いだけだから。


 と、セルフツッコミしてる間にも俺の頭脳ったらちゃんと別のこと考えて、土方との最後の会話を何回も思い描いてみてる。見落としはないか。ヒントはあのときの会話なんだ。俺はなんて言ってあいつはなんて答えた? うわぁこんなに脳みそフル回転させられるってさすが俺だよな。それと、ビバ甘味。


 まず、俺は土方と顔を合わせ辛かった。目の前で赤っ恥掻いた後だったからだ。でもよく考えたら土方も似たような恥を掻いてた。俺に対して。だからドローだと判断した俺は、なんだ大したこたねーやこっちから声掛ければ俺の恥はなかったことにできる上に、ヤツより優位に立てるんじゃないのってことに気づいた。だから土方に話しかけた。ビビってたよな明らかに。

 そういやなんであんなにビクついてたんだろう。ヘンなヤツ。

 まあそれはいいとして、ていうかヘンなヤツなのは大前提だからほっといて、そのビビりようをちょっと揶揄ってやったら面白いほど怒って言い返してきた。
 だからあそこまでは何事もなかった。

 次はなんだっけ。

 俺としてはまた飲みに誘ったつもりだったんだけど、半ば本気で飯代タカるつもりもあったからか、ヤツはまた怒った。怒って拒否しようとした。『割り勘ならともかく』って言おうとしてたよな。つまり割り勘だって冗談じゃねえのにあまつさえ奢りかよと。そういうわけだ、土方としては。俺と飲み食いはしたくないということだ。

 そんで俺はちょっとムカチンときたんだ。ウン。人が気ィ遣って二度も誘ってんのにテメーは断るのか、と。一度目は乗ったのに二度目はその態度かと。

 あれ? 一回目は何に気ィ遣ったんだっけ俺?


 土方が例の事件の後も、俺に前と変わりなく接してたのか有難かったから。
 つまり、俺があいつを差し置いてミツバさんと僅かな時間を過ごし、最後の笑顔を見て、しかも分不相応にもほんのり好きになっちまったことを、見ない振りしてもらったから。


 ああ、一回目は気遣いなんかじゃなかった。俺の俺による俺のための自己憐憫と自己満足の会だった。賢明にも俺は目的なんぞ口にしなかったから、あいつにはバレてない。
 バレてないどころじゃねーよ。当日忘れてたわ、俺自身が。なんで誘っちまったんだろうって真剣に悩んだわ。忘れたっつか、忘れたかったんだろう。おかげでヤツと普通の会話が楽しめた。俺は楽しんだ。
 今思い返せば土方にとっては、あれは謎の会だったよな。そら言いたいことがあんじゃねーのって聞きたくなるわ。うんうん。

 で、いろいろすっ飛ばしてこないだの会話だけど、そんときの土方の疑問に答えたんだよ俺は。


『別に意味はなかったんだけどね。なんとなく』


 ――やっぱりあいつの怒りのツボがわかんねえ。

 意味なくなんとなく飲む相手じゃねえってことか。意味がなさそうならダッシュで逃げるし、二度目は鉄壁築いてお断り物件ですか。
 結論。やっぱあいつは嫌い、だ。
 好かれてないヤツを好きにはなれんだろ。んでも、人間的にはイイ男だと思うけど。そこは変わんないけど。





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