酔っ払った多串くんは、今俺の背中で寝こけている。そして俺は、屯所に向かっている。


 ウチのほうが近いのになんだってこんなしんどい思いして律儀にこいつの住処まで運んでやんなきゃなんねーんだ、と道中何度も愚痴った。心の中で。でもどうしてもウチに連れていけなかった。俺の第六感が屯所にしとけと叫んでる。
 酔ってるとはいえせっかく話し掛けてきたのに、こいつは騒ぐだけ騒いで寝落ちやがった。腹立たしい。やっと俺が避けられてる理由を聞けると思ったのにこの生殺し感。腹立つ。ほんと。
 途中で起きたってこうも酔っ払ってちゃまともに会話も成り立たないだろうし、下手に暴れたり騒がれたりするのは面倒だ。重いけどずっと寝といてほしい。お願いします。

 なんつって『これで元の距離に戻れたらいい』なんて願ってる俺も俺だ。多串くんが潰れなくたって、結局俺は『なんで避けたんだコノヤロー』とは言えなかったと思う。うやむやでいいから元の……ミツバさんが現れる前の、顔合わせちゃド突き合いしてる距離に戻れれば俺はそれで平和なわけだ。だいたいそれ以上何があるってんだ。
 確かにあの事件でこのマヨネーズ野郎が思った以上にイイ男だと再認識した。でも、今までだって女絡みじゃイイ男だと思ってたし女が絡まなくても筋の通ってる奴だってのは知ってた。いちいちカチンとくるのはこいつがオマワリで俺があんま清廉潔白じゃないからであって、こいつの根本は嫌いじゃなかった。

 その距離に戻れれば良かったんだ、俺は。

 できれば俺の、身の程を知らない憧れ(ミツバさんに対してだぞ)なんてーのには気づかないでもらいたいし、百億が一気づいちまっても気づかないフリしてくれればいいのに気を利かせて欲しい。
 そこに気づかれさえしなければ、俺はこいつでほどほどの距離で遊べるし、いつも決定的に仲違いしてるようで次はちゃんと来るし、それがいちばん望ましいのだ。俺にとっては。

 それでも、ミツバさんに会わなかったことにはしたくない。あんなに健気なひとがこの世にいたことを、忘れたくないし会えて良かったと思う。

 そうだ、この矛盾なんだ。俺が困ってるのは。
 この矛盾があるから、こいつに避けられると強く抗議はできなくて、近寄ってくると逃げたくなるんだ。
 ああ、やっぱ捨ててくか。イヤせめて屯所の前くらいまでは……






 気がついたら万事屋が、俺を背中に乗っけて歩いてた。そしてどうやらこの方面、屯所に向かっている。

 屯所のほうが万事屋より遠いのになんだって律儀にウチまで運んでんだしかも負ぶってってどういうことだ恥ずかしいだろ下ろせクソ天パ、と道中何度も愚痴った。心の中で。でもどうしても言えなかった。だって目ェ覚ましたって知られたらいろいろ説明しなきゃなんねえだろ。
 酔ってるとはいえせっかくこっちが話し掛けてやったのに、こいつはたいして興味なさそうに曖昧な相槌しか打たなかった。腹立たしい。やっと俺が避けられてる理由を聞けると思ったのにこの生殺し感。腹立つ。ほんと。
 今その話を蒸し返そうにも寝落ちて背負われてるような有様じゃカッコつかないし実際まだ酔いで頭くらくらするし、下手に暴れたり騒がれたりするのは面倒だ。恥ずかしいけど屯所まで運んでってほしい。お願いします。

 とはいえこれで元の距離に戻れたらいい、なんて願ってる俺も俺だ。俺が潰れなくたって、結局『なんで避けたんだ上等だクソ天パ』とは言えなかったと思う。うやむやでいいから元の……こいつがミツバに会う前の、隙あらば叩っ斬るかしょっぴくか虎視眈々と狙ってやるあの距離感に戻れれば俺はそれでいいわけだ。だいたいそれ以上何があるってんだ。
 確かにあの事件でこの糖尿野郎が思った以上にイイ男だと再認識はした。でも、今までだって女絡みじゃなければイイ男だと思ってたし、まあ人として筋の通ってる奴だと知ってた。いちいちカチンとくるのは俺がオマワリでこいつがなんやかんやで絶対元攘夷浪士だからであって、こいつの根本は嫌いじゃなかった。

 その距離に戻れれば良かったんだ、俺は。

 できれば俺の罪悪感(ミツバにはこいつのほうが良かったんじゃないかっていう意味だぞ)なんてーのには気づかないでもらいたいし、百億が一気づいちまっても気づかないフリしてくれればいいのに気を利かせて欲しい。
 そこに気づかれさえしなければ、俺はこいつでほどほどの距離で遊べるし、いつも決定的に仲違いしてるみたいで次はちゃんと来るし、それがいちばん望ましいのだ。俺にとっては。

 もちろん俺はミツバに会って良かったと思う。あの女に会えたという事実は打ち消したくない。彼女がいたのは本当であって俺は確かにミツバが好きだった。その気持ちが決して彼女を幸せにするものではなかったし、万事屋がミツバと居るところを見てからは、ミツバの幸せは案外こんなちょっとだらしないけどいざというときには女だけを護ろうとする、こういう男の傍にあったのではないかと想像できただけだ。


 そうだ、この矛盾なんだ。俺が万事屋との関係をうやむやにしようとするのは。
 この矛盾があるから、こいつに避けられると強く抗議はできなくて、近寄ってくると逃げたくなるんだ。
 ああ、やっぱ目ェ覚ましたの白状して一人で帰るか。イヤせめて屯所の前くらいまでは……



「多串くんさぁ」

 げっヤバイ、寝たふりがバレたかコイツ野生動物みたいに勘だけはいいからな頭悪いけど、あと味覚も最悪だけど勘だけはいいよな剣の腕もアレだ、悪くはないよなウン、ここでイチャモンつけられたら酔ってる分俺が不利だなヤベェしらばっくれるか、

「銀さん、ちょっと寂しかった……なーんてな。ま、聞いてねーよな寝てるし。いいんだけど。聞いてねーから言ってんだけど」



 え、なにが?



「絡み酒でも上等なのかね。避けられちゃいねーんだもんな」



 は? 絡んでねえし俺、つかそういやそもそもなんで俺はコイツに背負われてぐーすか寝てたんだ? 絡んだのか? 酔っ払って?


 俺は何を言った……?





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