「おまえをこんな躯にしたのは、俺なのに」
坂田ドSモード。器具責め、スカあり。





 好きだと言われました。
 でも、俺はそのひとに、思いつく限りの酷いことをしてきました。
 そして、これからも思いつく限り、虐めたくてたまりません。


「あっ、あーっ、むりィーー! も、入んなぃ、やめてーーーッ!!」
「まだ入るって。オラ力抜け」
「イヤーーーッ、ぬ、抜い、ぬいておねが、」
「入る入る。ほーら入った」
「アーーーッ!? いたい、いたァァい! とってくらはい、おれがひ……」
「まだイけんだろ。スイッチ入れるぞ」
「アァアアァァァアーーッ! やら、もうやらァァアアァア! ぎんろき、ぎんろきーーー!」


 こんなに虐めても、そのひとは俺の名前を呼びます。俺に『助けて』と言います。
 ――そして、また俺のところに帰ってきます。
 いつか愛想を尽かされる。
 あなたが俺を捨てて去ったように。
 いいえ、あなたは俺を捨てた訳じゃない。深い情をもって育ててくれた。化け物の俺を可愛がってくれた。
 でも、俺が化け物であるが故に、あなたは死ななければならなかった。

 このひとには、俺のせいで死んで欲しくない。
 だから早く俺なんか見捨てればいいと思うのに、このひとが帰ってこなかったら俺はどうなるんだろう、と恐ろしくもなるのです。

 先生、俺はどうしたらいいんでしょう。

「ぎん、ぎんーーー! も、イク、イクーーーッ! でる、」
「あーあ、後ろからもなんか出てんぜ? 気持ちいの大好き淫乱ちゃん」
「あ、あ……、んぁ、ご、ごめん、なさ……」

 謝る必要なんてないのに。
 おまえをこんな躯にしたのは、俺なのに。



 しばらく向こうに行くのを止めた。
 神楽は変な顔をしたが、また押入れに寝る生活に戻った。
 新八も、自分より早く出勤してる俺に最初は驚いてた様子だったけど、要はこっちに寝泊りしてるってことがわかって何も言わなくなった。

 あいつがいない生活の、なんと寒々としたことか。

 偉そうなこと言ったって俺は、あの男におんぶに抱っこで生きてんじゃねえか。
 早々に自立し直さないと。
 万事屋の仕事に精を出し、焦って自分のペースを取り戻そうとした矢先。

「おいテメー、なにやってんだ」

 街中で腕を掴まれた。
 目ばかりギラギラした土方だった。
 言葉を失った。それほど土方は、焦燥していた。

「仕事で忙しいんならいい。だが連絡は寄越せ」

 掴まれた手首が痛い。掴んでるのは土方なのに、土方がぶるぶる震えていた。

「テメーがまた、黙って消えたらって……」

 そこまで言って土方は俯いた。ひゅう、と嫌な音がした。

「土方?」
「ーーっ、ぅぐ、」
「おい、土方?」
「はーーッ、っ、ふ、」
「ちょ、おまえ……」

 崩れる体を咄嗟に抱き止めた。
 相方がいるはずだ。見廻り中なら。
 だが、黒服はどこにも見当たらない。
どうしよう。
 いちばん近いのは万事屋だと判断して、土方を運び込んだ。

「マヨラー。どうしたアルか」

 神楽が覗き込む。

「あれ、具合悪いんですか? ちょっと待ってくださいね、水……」

 新八がキッチンに駆け込む。
 あんときと同じだ。
 高杉の艦で、虐めてやったときと。

「銀ちゃん、マヨラーと仲直りするネ」

 神楽が土方を団扇で煽ぎながら、ボソリと呟いた。

「喧嘩なんて、してねーよ」
「ウソ。もう何日も、マヨラーんちに帰ってないネ」
「そらァおまえ……、」
「銀ちゃん。無理しなくていい、ここは事務所ネ。私ももう、それくらいわかる」
「……ッ、」
「銀ちゃんの家はマヨラーんちアル。ここに帰ろうとするからおかしくなる。違う?」
「……」
「姉上とも話してたんです。ほら、姉上は近藤さんから、土方さんの様子も聞けるから」
「……お妙、なんて」
「神楽ちゃんが心配なら、僕と一緒に毎日ウチから通勤したらどうかって」
「神楽は? ここァてめーんちでもあんだぞ」
「ここは万事屋ネ。銀ちゃんと、新八と、私んちネ。私たちは家族ヨ」
「……だったら、」
「銀さん、僕たちは銀さんにも幸せになってほしいんです。前に言いましたよね」
「……」
「土方さんと、もっと話したほうがいいんじゃないですか?」
「……」
「少なくともマヨラーは、まだ話し足りないみたいアル。な? マヨラー」
「ッ、ひじかた、」

 青白い顔をした土方が、ゆっくり頷くところだった。



 近藤には俺が電話した。
 新八と神楽に見送られて、俺は土方を支えるようにしてこの男の部屋に来た。

(帰って、来た)

 ひじかたの……、いや、十四郎の匂いがした。それだけで、俺の甘えがぐずぐず燻る。

「とりあえず、寝ろよ」

 布団に横たわった姿はとても扇情的で、直視したらとんでもないことをしでかしそうで、

「ちょ……、飲み物買ってくる」
「入ってる。冷蔵庫に」

 くい、と袖を引かれた。

「日付はよく見ろよ。古いのが、混じってるかもしれねーから」

 弱々しく笑うのがとても愛おしくて、哀しくて、
 バカだなおまえ。
 おまえが帰って来ない日、ひとりを実感すんのが嫌でここに足を向けなかった。
 おまえは、俺がいないのわかってて、俺のために買い物して、待ってたのか。
 もしかして帰って来ないかもしれないのに。

「ごめんな、」

 自然と口を衝いて出ていた。

「待たせて……、不安、だったろ」
「まあな。どうしていなくなっちまったのか、わかんなかったから」

 苦笑に紛れてホッと息を吐く様子の、弱々しさ。
 謝ったものの、俺はどうしていいかわかんねーんだよ十四郎。
 わかってるのは、

「俺はおまえを護るどころか……おまえにぶら下がりっぱなしで、」
「違う。それは、俺だ」

 十四郎は真っ直ぐ、天井を見上げてた。
 藍色の瞳からは、
 後からあとから、
 ほろほろ、大粒の涙が、

「テメーがいなくなっても、待ってられると思ってた。テメーはガキみたいだから、何してんだか知らねえが飽きたら帰ってくんだろうと思ってた……思おうとした」

 涙を隠すように、拳で目元を覆い、

「二日と保たなかった。知らねえとこで死んでんじゃねえかと思って、万事屋を覗いたり。ちゃんと生きてて安心したけど、じゃあなんで帰ってこねえんだってハラハラして、俺なんかしたかって考えて、見廻りんときに見かけたら絶対捕まえようと思ったのに声かけて『おまえなんかもう要らねえ』って言われたらどうしようって思ったら屯所から出られなくなって、」

 ひくっひくっ、と喉が鳴っている。

「おい、だいじょうぶ……」
「俺のほうが、ガキみてえだ」
「落ち着けよ。寝たほうが、」
「嫌だ。ここにいろ」
「んな心配しねえで、今は寝ろよ」
「いやだ。ここにいるって、」
「いるよ。少し眠れ。そんで、飯食って、続き話そ」

 まだ疑ってんだろう。
 腕を引かれた。構えてなかったんで、もろに十四郎の上に倒れそうになった。寸でのところで、肘をついて十四郎を庇った。

「なにやってんだ!」
「……」

 無言で腕を首に回させられた。
 ぎゅうっと十四郎が背中にしがみつく。

 ひとり寝には慣れていた。
 けれど、ひとたび温もりを分かち合うことを知ってしまえば、もうひとり寝には戻れない。
 愛しい体温だから。
 十四郎もきっとそうだったんだろう。
 これからのことは後で考えればいい。
 今は、心配ってヤツではち切れてしまったこのひとの、身体の芯まで温めたい。
 俺は十四郎が寝入るまで、しっかりその身体を抱きしめた。






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