2 「金払ったら面白くできるんですかィ」 ※銀山要素あり。 「最近土方のヤローがつまんねえんでさぁ」 沖田が本当につまらなそうに俺に訴えた。 「はァ? 面白くしてくれってんなら金貰うぜ」 「金払ったら面白くできるんですかィ」 沖田は無表情に言い返した。 「そりゃあね。万事屋だし」 「へえ。職務熱心ですねィ」 「冷やかしなら帰ってくれよ」 「じゃあ……土方さんを一週間以内にマジ泣きさせるってのはどうですか」 悪魔の子は囁いた。 「もちろん、人死にはナシで。近藤さんに絡むのもナシにしてもらいやしょう、簡単すぎるんでね」 「泣いたって、どうやって証明すんの」 「やだなぁ旦那、陰で泣かしたってつまんねえでしょう? 公衆の面前でマジ泣きさせんのが楽しいんでさァ」 「……りょーかい」 あれ以来、土方を弄っていない。 もともと身体を楽しんでた訳でもないし、嫌がらせみたいなもんだ。あいつが堕ちてこないんじゃ面白くねえし、泣きもしねえし乱れもしねえ。 土方は街中で会うと、ぎゅっと唇を結ぶ。そして視線を逸らす。 そんなあいつを、俺はいつもゆっくり観察している。 悔しいだろうな。 さんざん弄ばれて、棄てられたなんてよ。 少なくとも、ライバル視してた俺にいいようにされて。 今日はあの地味な子と一緒らしい。 「よう」 「……!!」 「あ、旦那じゃありませんか。ご無沙汰です」 「おー……、ジミーくん」 「山崎です」 「そうそうジミーくん」 「山崎です」 「あのさ、近々ウチ来ない? 新八の奴があんぱん買いすぎてさぁ」 「俺、あんぱんキライですから」 「じゃあ何なら好きよ?」 「え……それは、」 「用意して待っててやる」 ジミーがほんのちょっと嬉しそうにしたのと対照的に、土方の顔は強張った。 それでも俺が一切話しかけないでいると、土方も決してこっちを見なかった。 「じゃあ、近々……お邪魔しよっかな」 ジミーが来たがる素振りを見せるごとに、土方唇を強く結び、密かに握った手の節が白く浮き出てきた。 約束の日取りまで決めて、副長いいですか、と確認までされて、土方は『勝手にしろ』と吐き捨てた。そして踵を返して遠ざかっていく。 けっ、失敗か。 当日はジミーの腕を取るようにして近づき、顔をわざと寄せて『何か食おうぜ』と言った。もちろん、土方の前で。 ジミーには何か食わせてやるつもりだったし、土方の日頃の様子なんかも聞こうと思ってた。 土方は目に入らなかったかのように、平然と通りすぎた。 でも意識してるのはわかってる。 平常心なら、ジミーに声を掛けたって、俺に罵声浴びせたっていいはずだからだ。 ところがジミーが、予想外の行動に出た。 「旦那に誘ってもらって……ほんとに嬉しかったんです」 下を向いて、辿々しいながらも懸命に訴えるジミー。 「ちょっと目先を変えたかったのもわかってます……二度も、とは絶対言いません」 今晩帰らなくていいですか。 しおらしくて、可愛いと思った。あいつと違って本心から訴える口調に、惹かれたと言ってもいい。 俺はジミーの携帯で、土方に連絡した。 今日はジミーを帰さなくても大丈夫か、と。 『好きにしろ』 それだけだった。 だから俺は山崎を抱いた。 土方にはしてやらなかった、優しい抱き方で。 「旦那。何したか知りやせんが、泣きやしたぜアノヤロー」 翌日、離れがたそうな山崎を甘やかして、昼過ぎにやっとお天道様を見た俺に真っ先に寄ってきたのは沖田だった。 「マジで?」 「部屋でひとりでってのが気に入りやせんが、その分爆泣きしてたんで許しまさァ。じゃ、約束通り何でも奢りやすぜ」 「今? 俺腹一杯なんだよねえ」 「おや珍しい。なんかあったんで?」 「ふふっ。デート?」 「へえ。旦那も隅に置けねえや。案外土方も、旦那に惚れてたりして」 「はぁ? ナイナイ」 「振られたショックで泣いたとか」 「やめてくんない、気色悪い」 「あー、イイコト考えた。そうじゃなくてもそういうことにすりゃ、一粒で二度オイシイわ。旦那、ありがとうごぜえやす」 沖田はキラキラ目を輝かせて、屯所に向かって駆けていった。 山崎が傷つくかもしれない。 けど、今度また甘やかしてやろう。 かわいい仕草で羞じらって、鳴いて俺の名前を呼んだ男の痴態を思い出して、俺は惰眠を貪るべく、万事屋に向かった。 章一覧へ TOPへ |