「人の恋愛に口出すなんざ野暮だと思うよ? 」
近藤さんに、性癖カミングアウトする土方




 近藤さんの元へ車を飛ばした。
 総悟は置いてきた。坂田が見廻組に連行されたことに一番腹を立てているのは、総悟かもしれない。

 俺が言うまで無駄に動くな、と言い聞かせるのに少し時間がかかって、こちらも焦るあまり頭ごなしに怒鳴りつけた。
 その間に山崎につなぎをつけて、連絡待ち状態。早く近藤さんのところに行きたいのに時間ばかり過ぎる。
 苛立ちばかり募り、目の前の総悟はグダグダ言うし血管が二、三本飛びそうになったとき、やっと山崎から連絡があった。

「極秘で」

 監察の行動は副長だけに権限がある。局長すら俺に断りなく動かすことはできない。
 裏情報をすべて俺の手元に集め、腹芸の苦手な近藤さんには取捨選択してから伝えるためのシステムなのだが、今は悪用させてもらう。
 山崎はそのひと言で了承し、盗聴を避けてすぐに電話を切った。あとは俺をどうににかして探してくるだろう。
 それほどタイムロスはない。あの男なら。

 俺は俺で、近藤さんに話さなければならない。
 俺の怠慢で、坂田は捨てられた。真選組から。
 局長の怒りは俺ではなく、坂田に向いてしまった。
 もう一度、今度こそはっきりと、近藤さんに理解してもらう必要がある。理解してもらわねばならない。
 坂田を救うために。

 屯所の前で車を乗り捨てると、ひっそりと山崎が出てきた。

「車、片づけます」
「他の奴にやらせりゃいい。それより今すぐ白服んとこに潜入しろ」
「!?」
「坂田が拉致られた」

 見廻組が坂田を拘束した経緯を簡単に話すと、山崎は大きく頷いた。

「合点です。でも、副長は?」
「いいから早く行け。一秒でも早く」
「……無茶せんでくださいよ」
「わかってる」

 坂田暗殺を阻止しろ、と。
 誰よりも、この男に任せるのがいい。この忠実でお人好しの部下は、坂田のために最善を尽くす。
 見廻組はさっさと坂田を消し、幕閣殺害も、高杉との共謀も、すべて死者の罪にするだろう。

 俺なら、そうする。

 ましてや真選組が協力的なら、すぐにでも。

 山崎の後ろ姿も見送らず、俺は局長室に駆け込んだ。

「どういうことだ」
「トシ?」
「なんで坂田を引き渡した」
「向こうに先を越されたんだ。証拠も出揃ってる……こっちは高杉捕まえないと、埒明かないだろ?」
「じゃあ先に捕まえればいいだろ! あっちには何とでも言いようもある、高杉を燻り出す餌とでも言っとけばこっちに拘留する理由には、」
「トシ」

 近藤さんが居住まいを正した。
 こうなることはわかっていた。でも、長年染み付いた近藤さんへの畏怖が、一瞬俺を怯ませた。

「目ェ覚ませ!」
「……ッ、」
「あいつにおまえが何されたか。今はぼーっとなってるかもしれんが、絶対後悔するぞ? 人の恋愛に口出すなんざ野暮だと思うよ? でも、でも俺はあんな奴におまえを好きにされんのは嫌だ」
「……」
「あんなことする奴に、おまえを任せらんねえ。為五郎さんに申し訳立たねえよ俺は。トシ、頭冷やせ」

 尊敬する人に逆らうなんて、しかも近藤さんに逆らうなんて、腹を据えてもやっぱり難しいものだと思う。
 でも。

「近藤さん、俺は……あんたの言う『あんなこと』が、理解できねえ」
「トシ……?」
「監視カメラのV、見ただろ? 俺は、あいつに、無理に抱かれたんじゃねえ」
「! おい、」
「他人の、それも身近な奴の性癖なんぞ聞きたくねえだろうけど、我慢してくれ。俺は好きで抱かれたんだ。売春て言ってるみたいだけど違う。金払ったのは俺だ。酷くしてくれって条件付けて、それを飲んだ奴に金払って抱かれた。坂田はたまたまそれを見つけただけだ」

 近藤さんの表情が消えた。
 この人がこんな顔するときは、物凄く怒っているときだと俺は経験上知ってる。できることならここで切り上げて、宥めるほうに回りたいがまだそれはできない。

「坂田は怒ったんだ。翌日の予約まで取ってた俺にキレた。あいつの性癖も変わってるから……そんなに男とヤるのが好きなら見ててやるから勝手にヤれって、翌日ついてきた」
「……」
「いろいろあって、坂田がついてきた日でそういうのは最後になったけど、だから俺の相手は俺が引っ掛けた奴らで、坂田は知らなかったんだ。知らないから驚いて、腹立てたんだ」
「ちょっと待て。確かトシが過労でぶっ倒れたのって……」
「坂田のせいじゃない。むしろ坂田がいなかったら、俺はヤり殺されて道端に転がってたよ。坂田が病院に運んで、付き添ってた。目ェ覚ましたら坂田がいて、びっくりした」

 それから、続きを話して聞かせた。
 坂田が居なくなったこと。
 万事屋の子どもたちに、雇い主を探してくれと頼まれたこと。
 本業が疎かになるほど探したが見つからなかったこと。
 高杉が近くにいるという情報が入ったので、ひとまず坂田の捜索はやめ、高杉の母艦を探り当てたこと。
 坂田のバイクが不自然に乗り捨ててあって、そこから綺麗に痕跡が絶たれていること、高杉の艦の位置から考えて坂田失踪と無関係とは思えなかったこと。
 一人で潜入したこと。
 坂田が軟禁されていたこと。

 ただ、高杉にされたことだけは言えなかった。

 高杉のところから脱出して、お互いに傷が癒えるまで隠れていたこと。
 そこで坂田が俺を必死で看病したこと。
 俺から言い出さなければ決して触れなかっただろうこと。
 ようやく触ってもいいとわかっても、どう扱っていいかわからず、怖がって泣いてたこと。
 躯を重ねても、始終俺に気ばかり使っていたこと。
 真選組が踏み込んでくると知って、坂田は冤罪をすべて被るつもりでいたこと。

「身内にこんなこと話すのが気まずくて黙ってたけど……俺のほうが酷くされたいんだ。でも、誰でもいい訳じゃないって気がついたのは坂田と二人っきりで暮らした時間のおかげだ。俺は、坂田がいい。坂田が俺を愛してくれるってわかってるから、酷くされたい。他の奴は、いらないんだ」


 言うべきことは、全部言ったと思う。

 あとは、古い友人であり、上司でもある目の前の人の、答えを待つだけ。

 心なしか蒼褪めた近藤さんの顔を見るのが、恐ろしかった。


 でも、代えられないひとがいる。
 銀時。
 ぎんとき。
 ひとりで死のうとするな。






前へ / 次へ



章一覧へ
TOPへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -