「ヨかなかっただろうけど、イッたことに違いない」
銀×幕僚 死・流血・グロあり。





 随分こっちの思惑から外してくれたもんだ。

 俺が真選組で高杉を待って、相打ちって腹づもりはパアになった。
 それは、真選組の中に見廻組が入ってきたときに理解した。
 これでは見廻組の落ち度になりかねない。高杉は徹底的に真選組を貶めるだろうに、これでは奴の狙いは半分しか果たせない。
 俺は、他ならぬここで高杉に殺されるべきなのだ。

 抵抗してやった。ただ、真選組と見廻組の関係もあるはずだ。ぶち殺すのはまずいだろう。
 殺さない程度に大暴れするくらい、なんてことはない。こちらもあまり怪我はしたくないし、それくらいでちょうどいいだろう……
 と思っていたはずだったのに、気がついたら『やり過ぎていた』。
 ほとんどの隊士が転がっていて、僅かに残った奴は化け物を見るような目でこっちを見てて、本性を隠しきれなかったことに遅まきながら気づいた。
 そこに飛び込んできた、黒。

――なんで、おまえが

 しっかり目を合わされて、剣士の顔で諌められて、
 ああ、またみっともねえとこ見られちまったってわかった。
 見ないで欲しかった。こんなところ。
 最後の最後に、こんな薄汚れたところを。
 なのに土方は俺を庇ってくれた。
 双方の局長が俺の移送に合意していると、俺は初めて知った。
 土方は聞いてないと言い張った。言い張ってくれた。わざと確認してこなかったのは明らかだった。
 そんなことしたら、後で立場が悪くなるのはおまえなんだぞ?
 だから俺は、その場で近藤に確認させて、見廻組のほうへ移った。

 もう、土方をまともに見られなかった。

 少しは役に立てただろうか。
 最後まで厄介な奴だっただろうか。
 ただ、真選組から真っ当に出てしまえば、厄介だけはかけないですむ。
 それだけが嬉しかった。ほんとうに嬉しかった。あの美しいひとに、これ以上俺のことで汚れてほしくなかったから。


 こっちでの容疑は、真選組のとは違った。

「あー……覚えがねえな」

 なぜバレた。

 土方を抱いた男はほかにもいたのに、あの男だけは許せなかった。
 俺の知らないところで、
 土方に懇願されて、
 あの躯を隅々まで味わった男。

 どういうわけかなんて、あのときは考えもしなかった。ただ、こいつだけは斬ると、普通の死に方はさせないと、そう思っただけだったし、それで十分だった。あのときは。

 今は、おぼろげに輪郭がわかる。

 あの男は、『土方』に思い入れがあった。
 誰の躯でも良かったかもしれないが、中でも『土方』を望んだ。そして、土方はそれに応えたんだ。
 それが気に入らなかった。
 輪姦してた奴らは相手が土方だろうが誰だろうが構わなかった。そこに性欲解消の相手が居ればよかった。鬼兵隊の連中のように。
 でもあの爺は土方で性欲を満たしたんだ。土方を、楽しんだのだ。

 初めから殺すつもりで乗り込んだ。
 セックスを匂わせると、爺は少し考えたらしかった。
 ともかく、上がれ。
 あの男はそう言った。

 そのまま俺は上がり込み、爺が土方にしたであろうことを全部やってやった。てめえの尻の穴に俺のがめり込んでるのを見て奴は泣き出した。構わず犯して、あいつが使われただろう玩具も使って責め立てて、漏らしても粘膜が切れて腫れあがってもやめなかった。
 ついに前立腺でイッたときの爺ったら見ものだった。
 勃ちもしないブツからトロトロ汁を垂れながら、俺に、この俺に乞うたのだ。

 もっと、と。

 土方は俺に、決してねだらなかった。
 躯は出来上がっていて、触れなければ辛いほどに切迫詰まっていても、震える唇を噛んで絶対に声を上げなかった。
 あの土方を差し置いて、よりによってこいつが。

 そいつの股間を扱き立ててやって、今にも放出というときに俺はブツを斬り取った。そして素早くそいつの尻穴にぶち込んでやった。
 一瞬何が起きたかわかんなかったみたいだった。残った根元から血飛沫と一緒に白い体液もダラダラと垂れていた。
 ショック死する前に、目の前で自分の男根がバラバラにされてくのを奴は見たはずだ。
 スッキリした、と思っていた。

 でも。

「証拠は上がっています。目撃者もいます。大人しく罪を認めたほうが利口でしょうね」

 佐々木という男は無表情なままだ。
 どこまで掴んでいるのか。犯行動機は知られているのか。
 知られていなかったら、何としてでも否認しなければ。
 土方に絡んでいると、こいつに知られる訳にはいかない。
 願うは……高杉。
 あのばか野郎が早く来て、俺を探し当ててぶっ殺すことを願う。
 そのついでに見廻組屯所もぶち壊していってもらわないと。

 なのに俺ァどうしようもねえ奴だった。ほんとうに、根っこから。
 もう会うこともないと思ってた土方に突然再会して、それどころか腕を伸ばせば抱き取れるほど近くに見て、その上軽く暴れたあとときたもんだ。
 腰が疼いて仕方ない。
 見えちゃいねえだろうが、服の下でギンギンに勃起しているのは触らなくてもわかる。

 この片メガネでいいから突っ込んでやろうか。

 そんなことを思い始めるほどには、俺は切羽詰まっていた。

「なあ、厠行かしてくんね」

 ダメ元で言ってみると、佐々木は黙ってこっちを見つめた。

「聞いてんの?」
「聞いてます。原始的な方法ですが、全部話してくださったら自由にどうぞ。早くスッキリすることをお勧めします、身も心もね」
「いーよ。行かしてくんねーならここでするし」
「……そうですか。ではご自由に。尋問は続けていいということですね、助かります」

 後ろ手に縛られてるだけなので、やろうと思えばこいつを蹴り倒して逃げることはできる。
 だが、俺も確認しときたいことがあんだ。

 目撃者? 誰だ。
 誰も居なかったはずだ。あっちにとって危ない橋を渡る訳だから、念を入れて人払いしただろう。現に土方は何度も通ったと言っていたし、強引に訪ねて周りにバレるのを嫌って遠ざけたんだから。
 性欲だけで物を考えてたわけじゃないはずだ。
 誰だ?

 そこまで考えて、当たり前に答えが見つかった。

 なんだ、そういうことか。

『嫌になっちまったんだろう?』
『一緒にぶっ壊すか? 何もかも』

 最も会いたくないときに、都合良く現れて。
 あの野郎、ここまでお見通しだったってわけか。そりゃあ戦術にかけては右に出る者はなく、あのヅラでさえときには黙らされた奇策士だ。
 当然だった。
 俺はあいつを性欲処理の腐れ縁としか思ってなかったけど、あいつは違ったんだ。それだけのこと。

「思い出したら話してやんよ。一旦寝てえんだけど。あと厠も」

 佐々木は俺の変化に感づいたようだった。
 よろしい、三時間の休憩を与えます、と俺にではなく隊士に言いつけて、サッと取調室を出ていった。
 俺は鎖の端を握った隊士と、独房に向かう。
 鍵を下ろされてから、ほんの数分後。


「言わんこっちゃねえ。こっちにゃァテメェの居場所なんぞなかっただろうが」

 高杉が、鉄格子の向こうに立っていた。

「そうみたいだな」

 答えながら、もう一度、最後に、
 土方の顔を思い浮かべた。

 これで、ほんとうにさよならだ。
 けれど、きっと護るから。

 おまえははそのまま、真っ直ぐ生きてくれ。




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