「いいんだ、おまえが噛んでたとしても」





 その足で局長室に踏み込んだ。

「トシ……」
「そういうことだから。目で見ねえと、わかってくんねえみたいだったから」
「……ごめん」
「何が?」
「余計つらい思いさせた」
「……」
「最初っから信じてればよかった」
「何を?」
「オメーと、総悟を」

「総悟?」

「おかしいとは言ってたんだよ。自分で引っ張ってきたネタなのに、どうも納得いかないって。でも、アイツ万事屋と仲良かっただろ。私情はあるだろうと思っちまった」
「……」
「私情を挟んだのは俺のほうだ」

「よし。高杉の件は、俺も調べていいよな」

 この人は、俺と義兄との約束事を知っている。
 義兄亡き後は、代わりにこの人に謝ったり謝られたりした。
 だから、近藤さんが謝ったのなら、この件は終わりだ。俺とこの人の間では。
 いつもなら、そうだった。
 けれども、

「ダメだ」
「なんで!」
「この件、おまえはあっちこっちから狙われ過ぎてる。護衛の身になれ」
「護衛なんて要らねえ」
「相手は高杉だぞ。地上に奴の手駒もいるってこともわかってる。それに……」
「アレか」

 変死した幕臣の身内が、文句言って来るとも思えないが難癖をつけることくらいはできるかもしれない。

「尻尾は押さえてある。いざとなりゃ、泣き見るのは向こうさ」
「いざ、にはしたくない」

 近藤さんは俺の身を案じているつもりなんだろう。
 でもほんとは違うんだと思う。嘘をついているつもりはないだろうけど、無意識に違うことを考えてるんだ。
 近藤さんは認められないのだ。
 俺が何人もの男に、進んで脚を開いたことを。
 荒療治でやっと坂田との関係は理解したものの、複数の男と過激なプレイをしないと熱が治まらなかった、あのときの俺を認めることができない。
 だから高杉がアブノーマルプレイを好む(近藤さんにとっては噂だろうが、事実なのを俺は知っている)のを前提に、俺をこの件から外すつもりなんだと思う。

 心を砕いてくれることには、素直に感謝する。
 でも、認めてほしい。
 酷くされて悦ぶ、それも俺なんだと。

「情報収集はさせてもらうぞ」

 監察は副長付きだ、と指摘すると、かなり渋ったが結局許した。
 俺は山崎に連絡を取り、これからは大っぴらに報告していいこと、坂田の罪状がひとつ減ったことを伝えた。

 電話の向こうがかすかに喜色に染まる。

『ほんとに、よかった……じゃあ高杉と関わったほうの嫌疑が晴れれば、旦那は無罪放免ですね』

 ぎゅう、と鳩尾の辺りが痛む。
 そうだった。
 坂田が無罪放免になれば、この優秀な部下にも正当なチャンスが巡ってくる。
 異常な状況下で互いに抱いた恋情の、真実が見える。
 俺のは……変わらないけど。
 もしかしてあの男は、素直な山崎を選ぶかもしれない。

 それでも、好きに変わりはない。

 くらり、と世界が歪んで息が苦しくなった。
 さかた。
 どんなおまえも好きだけど、俺ではない誰かを愛するおまえを見るのは、きっと辛い。

 この息苦しさが止まったら、きっとおまえの幸せだけを願うから。
 今だけ、




 数日後、坂田の拘留所が変わるまで、俺は会いに行かなかった。
 やっと行ってみると足枷は外され、手枷も武器が振るえない程度に括られている、少し長めの手錠に変わった。
 傷は青黒くなっていたが、腫れは引いた。一時期熱を出したと聞いて心配していたのに、本人はジャンプを読みながらアイスに夢中だった。

「頼みたいことがあンだけど」

 茫洋とした視線をゆらりと動かして、雑誌越しに俺を見る。

「なんだ。差し入れか」
「違う。新八と神楽だ」

 ああ、無事なら伝えたぞ、と軽く往なすと、

「ちげーよ。どう見ても無事じゃねえだろ……あいつらには累が及ばねえようにしてやってくれ」
「……」
「オメーならできるだろ。俺は罪人でもあいつらは違う」
「……罪人、て」
「俺のせいであいつらが後ろ指さされるようなことは避けてえ。頼む」
「テメーがすればいい」
「俺? ははっ」
「?」

「出られる訳がない。出る理由も」

「なんで……」
「やることがある。ここにいたほうが、決着は早くつく」
「何をする?」
「ナイショ」
「……坂田」
「ダメだよ、んな顔したって。オメーにゃ関係ねーし」
「ヒトにモノ頼む態度じゃねえな」
「わかってる」

 坂田は染み入るような、ほんとうに綺麗な笑い方をした。

「俺はおまえを嵌めて、ひでー目に遭わせたんだ。頼める義理じゃねえのは、わかってる。でも、おまえに頼みたい」
「……」
「俺が死んだあとも約束守ってくれそうなのが、おまえしか思い付かない」
「死ぬ……?」
「俺は悪い奴なのよ。おまえが思ってるより、ずーっと」
「……」
「だからあいつら護ってくれ。俺から」

 死ぬ、のか?
 さかた。

「おれは、みとめねーぞ」

 坂田と俺を隔てる柵を握る。

「テメーが死ぬなんて、みとめねーから」

 困ったように坂田はますます笑って、でもよォ、と言葉を続けるのを遮った。

「いいんだ、おまえが噛んでたとしても……高杉から男ども仲介しててもしてなくても、いいんだ、俺は」
「ひじかた」
「どっちにしろテメーは俺を見つけたし、俺はテメーに見られて嬉しかった。おかしいかもしんねーがあんなとこ見られて、明日もって言われて……明日もテメーは俺に会ってくれんだなって思って、嬉しかった」
「……」
「テメーが罪人だろうが無罪だろうが、」

 今までちゃんと言ってなかった。
 今こそ、声を張って言おう。


「俺はおまえが好きだ。坂田銀時」





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