「だが、もうひとつの容疑は晴れちゃいませんぜ」
まだ最中






 繋がったままの姿を見られるのには慣れていた。
 でも、身内に見られるのは気分が良くない。

 見せつけようとして、やったことなのに。

「とりあえず旦那の上から退きなせえ。顛末はわかりやした。証言もします。胸糞悪ィけど」
「テメーに頼まなくても、録画してあんだろが」
「ええ。今ごろ近藤さんが見て気絶してまさァ」

 気だるい躯を叱咤して、坂田の肩に手を掛ける。
 ゆっくり引き抜くと、胎内から坂田の体液がどろりと流れ出るのがわかった。

「あーあ、どこのAVでィ。安っぽい作り方しやがって、そんなに見られんのがお好みなら俺がもっといいシナリオ書いてあげまさァ」

 もう一本タオル持ってこねえと、とぶつくさ言いながら立ち去る総悟の後ろ姿を見送り、坂田の血糊を拭き取った。

「いいから。服、着ろ」

 坂田は慌てて身を捩った。

「嫌だ。おまえが汚れてんの、気分悪い」
「なんで?」
「なんでって……こんなに怪我しやがって」
「オメーんとこの連中にやられたんだけど」
「やられんじゃねえバカ」
「はァ? お宅の部下、相当手練だかんね。さすがにひとりじゃ無理」
「ほら。冷やしとけ」

 また外からタオルがたくさん飛び込んできて、

「手足の枷は、すいやせんが局長命令が下りるまでしててくだせェ。あとが厄介だ」
「ハイハイ」
「痛むでしょう。なんせアンタの手足封じるまで生きた心地がしやせんでしたから、こっちも必死でね」
「はいはい。わかってるよ」

「で、土方コノヤローに襲われた気分はどうです」

 言い返したいのに、言葉が出ない。
 坂田が耳元で「大丈夫」と囁いた。

「オメーは、どういう立場になんの」
「聞きますか、俺に? 今も録画は続いてるどころか局長が見てんですぜ? 下手したら俺の首が飛びまさァ」
「もう、飛ぶだろ。飛ぶんなら」

 な、土方。服着ろよ。俺の後ろで。

 カメラを気にして俺を庇うように体を揺する坂田が、可愛らしくて、でも頼もしくて、
 言われるがままに服を直した。

「やれやれ見せつけてくれますねィ。嫌んなっちまう……けど、これで容疑はひとつ晴れるでしょう」

 総悟が棒読みで言う。

「だが、もうひとつの容疑は晴れちゃいませんぜ」
「高杉のことだろ」

 事も無げに坂田は答えるのだ。

「言い訳したって聞いてくれそうにねーし。あながち間違いじゃねーから、もういいよそれで。打ち首でもなんでも」
「ダメだ! 何言ってんだテメーッ」
「おまえの潔白は俺が証明する。任せとけって」
「旦那、コイツぁこの件から一切手ェ引かされてんでさァ。アンタへの容疑もろくに知りゃしねえから、話は通じませんぜ」

「俺はね、土方くん」

 坂田は苦笑した。

「高杉と組んで、オメーを強姦したの。オトコ漬けにしてヤんないといられねー躯にしようとしたんだよ」
「おっと。芝居はもう、やめやしょう。土方さんがビッチなのは今バレちまいましたからね……そんなビッチを持て余した奴がいて、そいつはもう自分の身体が保たねえと思ったんで、土方さんが二度と自分とこに帰ってこないように、男を宛がったわけです」
「……さあ、その辺は。高杉に理由なんか聞いても無駄だし」
「旦那、しらばっくれていいところと悪いところがありやす。そこんとこ曖昧にしたら、アンタが……」
「知らねーモンは知らねー」
「まあいいや。そいつの話を続けますが、そいつひとりじゃスキモノばっかり大量に供給できねえ。そこで高杉に頼んだってーことですよ。ヤローもかなりのモンらしいんでね」
「……」

 坂田は素知らぬ顔で口をつぐんでしまった。

「しかし高杉が直接指示したとは思えねえ。もしそうするなら、男なんか用意しねえでアンタをかっ浚って、ヤっちまえばいいんですから。殺っちまってもいいですし」
「ちょっと待て、あれは俺が自分で……」
「何かの理由で、奴はアンタに手を下さなかった。なら、代わりがいたはずってのが、近藤さんの考えです。つまり、旦那ですよ」
「……ちがうッ!」
「アンタはそう言いますけど、ほら、旦那は否定しやせんぜ?」

 坂田はもう、我関せずというように船を漕いでいた。

「腹ァ括りきってんでしょう。捕まるまではアンタの秘密を護るために大暴れしてましたが、勝ち目が薄いと見た途端に黙っちまったのァ、全部腹に抱えて死ぬつもりだったからなんでしょうね」


 道理で強かったわけだ。


 総悟は誰に言うでもなく、呟いた。




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